岡山電気軌道事件(退職の意思表示の撤回)

岡山電気軌道事件(岡山地裁平成3年11月19日判決)
「常務取締役担当部長には、単独で即時退職承認の可否を決する権限はなかったとして、当該部長が退職願を受領した後の撤回届の提出により、有効に撤回されたものと認めた。」


[事案の概要]
Yは、定期路線バス、観光バス等の旅客運送営業をなす株式会社であり、Xは、Yのバス運転手として勤務する者である。Xは、昭和62年11月に観光バスの運転を行った際、Yと契約している土産物等販売店から立寄確認印をもらうことをせず、同店から菓子折りと現金を受け取ったことを報告しなかったなど、勤務態度に問題があったため、同年12月2日、Yは、Xを事務所に呼び出し事情聴取及び指導注意を行った。ここで、Xが反省の色を示さず、満足のいく回答をしなかったため、Yの乗務らはXに悪感情を抱き、Xの行為が重大な規律違反であり懲戒解雇事由に該当するかのような発言を行った。Xは長時間にわたる事情聴取から早く逃れたいとの気持ちもあって、、懲戒処分を受けて退職金まで失うよりは退職した方がよいと思い、自ら退職願を書くことを申し出、同日これを作成してA常務取締役兼観光部長に手渡した。Xは、翌日、退職願の撤回を打診し、同日9日に撤回届を提出したが、Yはこれを認めなかった。


[判決の要旨]
Xが昭和62年12月2日作成した本件退職願は、常務宛ではなく社長宛となっていること、Yには会社組織上労務部が置かれており、その「労務分掌規程」には明文をもって、従業員の求人、採用、任免等に関する事項は労務部の分掌とされていること、労務部にはB部長以下の職員が配置されており、その統括役員はA常務ではなくC常務取締役であること、右分掌規程には、分掌の運用にあたってはその限界を厳格に維持し、業務の重複及び間隙又は越権を生ぜしめてはならない旨規定していること(第3条)、Yは業務分掌規程と職務権限規程とは別個であると主張しながら、職務権限規程について明文で定めたものは存在しないこと、また、権限委譲についても明文で定めたものはないこと、通常の退職願承認の手続は、社長宛の退職届が所属長に提出され、所属の部長、担当常務に渡され、営業部長が退職届を受理すると判断のうえ、営業課の稟議簿に記録し、営業課長、営業所長、自動車部担当常務と順次閲覧の後、本社労務部にまわされ担当の常務取締役、専務取締役によって決済され承認していたことが認められ、これによると結局、A常務には同人が統括する観光部、営業部、整備部に所属する従業員の任免に関する人事権が分掌されていたとは解されない。しかも、Xが本件退職願を提出するに至った経過に照らしてみれば、A常務が専務取締役Dとの協議を経ることなく単独で即時退職承認の可否を決し、その意思表示をなし得たということはできない。なお、A常務が本件退職願を原告から受け取った時、ただちに退職承認の意思表示をした旨の主張については、採用することはできず、他にこの点に関してY主張事実を認めるに足りる証拠はない。以上のとおり本件退職願は、昭和62年12月9日の撤回届の提出により有効に撤回されたものというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、XはYの従業員たる地位を有するということができる。