昭和女子大学事件(退職の意思表示の瑕疵)

昭和女子大学事件(東京地裁平成4年2月6日決定)「労働者は反省の意を強調する意味で退職願を提出したもので退職の意思を有していなかったものであり、会社は労働者の退職の意思表示が労働者の真意に基づくものではないことを知っていたものと推認することができることから、退職の意思表示は心裡留保により無効であり、退職の効果は生じないとした。」

[事案の概要]
Xは、Yが設置する短期大学部国文科の教授として学生の研究と教育を指導し、研究に従事していたものであるが、同じ科の助教授と意見に相違を生じ、このことにつき助教授からYの学長であるAに、Xに非がある旨の報告が為されたため、平成3年1月31日、XはYに呼び出され査問を受けた。A学長は同年3月9日に再びXを呼び出し、勤めを続けたいならそれなりの文書を提出しろと要求したことから、Xは、実際には退職する意思がなく勤務継続の意思を有していたが、反省の色が最もよく出る文書にした方がよいと判断して、同月12日、「退職届」をA学長に提出した。

[決定の要旨]
Yは、Xの平成3年3月12日付けの退職願を同年5月15日に受理することにより退職の合意が成立し、右合意に基づき同年9月末日に退職を発令したものである旨主張する。しかしながら、右認定事実によれば、Xは反省の意を強調する意味で退職願を提出したもので実際に退職する意思を有していなかったものである。そして、右退職願は勤務継続の意思があるならそれなりの文書を用意せよとのA学長の指示に従い提出されたものであること、Xは右退職願を提出した際にA学長らに勤務継続の意思があることを表明していること等の事実によれば、YはXに退職の意思がなく右退職願による退職の意思表示がXの真意に基づくものでないことを知っていたものと推認することができる。そうすると、Xの退職の意思表示は心裡留保により無効であるから(民法93条但書)、Yがこれに対し承諾の意思表示をしても退職の合意は成立せず、Xの退職の効果は生じないものというべきである。