ニシムラ事件(退職の意思表示の瑕疵)

ニシムラ事件(昭和61年 大阪地裁決定)
「使用者の懲戒権の行使や告訴が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のありうべきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて退職届を提出させることは、強迫行為というべきであり、それによってなした労働者の退職の意思表示は取り消しうるとした。」


[事案の概要]
Yは、婦人服の小売販売を業としている会社であり、Xらは、Yに雇用され、庶務、経理等の事務の業務に従事してきた者であるが、YはXらに対し、事務所経費で食品等を購入して飲食したことは横領罪にあたり、退職しなければ懲戒解雇や告訴も考えていることを告げ退職を勧奨したため、Xらは退職届を提出した。


[決定の要旨]
労働者に何らかの不正行為があり、それによって使用者が被害を被ったような場合に、使用者が右を理由に労働者を懲戒解雇に処し、あるいは刑事上の告訴をなすことは、それらが濫用にわたらない限り、正当な権利行使として許されることは論をまたないが、使用者の右懲戒権の行使や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴の有り得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる脅迫行為というべきであり、これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとしして取り消し得る。〈経費での食品等の購入について、金額も僅少で、横領をもって論ずる性質のものとは言いがたいこと、YはXらを注意せず証拠の収集のみに専念していたこと、収入印紙代金の着服について行為者を特定できないこと等を認定したうえで、〉以上に加えて、Yは、その主張する不正行為への関与に大きな隔たりのあるXら両名の処遇を一律に考え、あるいは、告訴に関してはXら以外の関与者以外についても当然問題とされて然るべきであるにもかかわらず、これらの者について告訴を検討した形跡も伺われないことなどにも照らすと、Yが本件でXら両名を懲戒解雇に処し、あるいは刑事告訴を行なうとすれば、濫用のそしりを免れないというべきである。そうすると、Xらの本件退職の意思表示は、Yの強迫によって畏怖した結果なされたもので取り消し得るものというべきところ、右意思表示は、遅くとも昭和60年8月24日に取り消されたものというべきであるから、申請人のその余の主張について判断するまでもなく、本件各合意解約はいずれも無効である。