日本ヒルトン事件(変更解約告知)

日本ヒルトン事件(東京高裁平成14年11月26日判決)
「労働条件の変更に合理的理由の認められる限り、変更後の条件による会社の雇用契約更新の申込は有効であり、労働者らの異議留保付承諾の回答は、申込みを拒絶したものといわざるを得ず、雇止めには社会通念上相当と認められる合理的な理由が認められるとした。」


[事案の概要]
Xらは、有料職業紹介事業を行う配膳会に登録され、その紹介を受けて、昭和59年なし63年から、Yホテルの配膳人(スチュワード)として就労していた。Yは、その経営状態が悪化したことから、平成11年3月9日、各配膳会に登録してYホテルに就労する配膳人に対して、従来賃金の支払い対象とされていた食事・休憩時間を賃金の支払い対象としないこと等を内容とする、労働条件の引き下げを通知した。95%の配膳人は、これに同意したが、Xらは、労働条件変更を争う権利を保留しつつYの示した労働条件の元に就労することを承諾するとYに通知したところ、同年5月11日、YはXらを雇い止めした。


[判決の要旨]
当裁判所も、XらとYの間の日々雇用の関係が長期間継続していたからといって、XらとYの間の雇用契約が期間の定めのない契約に転化したとか、XらとYの間に期間に定めのない雇用契約を締結したのと実質的に異ならない関係が生じたということはできないものと判断する。平成11年5月11日以降、YがXらとの間の雇用契約の存在を否定し、Xらの就労を拒否したことは、期間の定めのある雇用契約を更新しなかった雇い止めに該当するというべきである。XらとYよの間の雇用契約について、〈(1)約14年にわたり日々雇用関係を継続してきた、(2)Yも常用的日々雇用労働者の存在を認めてきた、(3)Xらは、遅くとも平成8年以降は週5日勤務を継続していた等〉の事情が認められるのであり、これらの事情を総合すると、常用的日々雇用労働者に該当するXらとYとの間の雇用関係においては、雇用関係のあr程度の継続が期待されていたものであり、Xらにおけるこの期待は法的保護に価し、このようなXらの雇い止めについては、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇い止めは許されないと解するのが相当である。XらとYの間の雇用関係が簡易な採用手続きで開始された日々雇用の関係であること、ある日時における勤務は、XらがYから強制されるものではなく、Xらが希望しYが採用して初めて決定するものであること、Xらは配膳人からスチュワード正社員になる道を選択せず、配膳人であることを望んだこと等のXらとYの間の雇用関係の実体に照らすと、本件雇い止めの効力を判断する基準は、期間の定めのない雇用契約を締結している労働者について解雇の効力を判断する基準と同一ではなく、そこにはおのずから合理的な差異があるというべきである。XらとYは日々個別の雇用契約を締結している関係にあったのであるから、本件労働条件変更に合理的理由のみとめられる限り、変更後の条件によるYの雇用契約更新の申し込みは有効である。そして、これに対するXらの本件異議留保付き承諾の回答は、Yの変更後の条件による雇用契約更新の申し込みに基づくYとXらの合意は成立していないとして後日争うことを明確に示すものであり、Yの申し込みを拒絶したものといわざるを得ない。XらとYの間の雇用関係の実体にそくして判断すると、本件労働条件変更は、大幅な抱え、ホテル建物の賃貸人から賃料不払いを理由とする明渡請求を受けるという会社の危機的状況にあって、会社の経費削減の方法として行われたもので、その労働条件変更の程度も、同様に不況にあえぐ他のホテルでも実施されている程度のものであって、会社の危機的状況を乗り切るにはやむを得ないと認められ、したがって、本件労働条件変更に合理的理由があること、Yは本件雇い止めに至るまでに約半年前から組合と交渉を開始し、Xらに対しても繰り返し本件労働条件の変更の合理的理由を説明したこと、Yは正社員の組合に対しても人件費削減のため賞与の引下げ等を提案し、同組合もこれに同意していること、Xらは正社員になると身分は安定するものの勤務時間が拘束されることなどから正社員になることを希望せず、あえて日々雇用関係という身分に甘んじてきたこと(これは正社員ないし長期間の雇用契約を希望しながらも採用されないため、月単位ないし1年単位の雇用契約を長期にわたって更新している場合と根本的に異なる。)、そのような雇用形態にあるXらの本件異議留保付承諾の回答は、Yの変更後の条件による雇用契約更新の申し込みを拒絶したものといわざるを得ないこと、それにもかかわらず、そのような意思表示をしているXらの雇用継続の期待権を保護するためにYに対してXらとの間に日々雇用契約の締結を義務付けるのは、今後も継続的に会社経営の合理化や経費削減を図ってゆかなければならないYにとって酷であること等の事情によれば、本件雇い止めには社会通念上相当と認められる合理的な理由が認められるというべきである。したがって、本件雇い止めは有効であると認められる。