ブック・ローン事件(配置転換の制限・勤務場所の限定)

ブック・ローン事件(神戸地裁昭和54年7月12日決定)
「独身女子社員に対する配置転換命令が、募集広告の内容、通勤時間等を考慮した上で、勤務場所の限定について黙示の合意があるとした。」


[事案の概要]
X(女性)は、Y社の新聞掲載の募集広告において、勤務場所が和歌山市とされていたことを重視して応募し、採用された。採用後、Xは、大阪業務課和歌山業務に配属され、顧客からの代金回収業務とそれに附随する業務に従事していた。Xは、Y社に採用された当時(昭和48年)18歳であって、両親と同居しており、通勤には片道約1時間を要する。Y社は、昭和54年5月、Xに対し大阪業務課勤務を命じた。Xが、大阪事業所に通勤するには、片道約2時間30分を要する。


[決定の要旨]
勤務の場所は、被雇用者であるXにとってその当時及び将来の生活上きわめて重要な意義を有するものであることはいうまでもないから、この点と前記〈事案の概要〉の各認定事実を綜合すると、とくに勤務場所に関して明示的に限定する旨の合意がなされたことの疎明資料のない本件においても、本件当事者間の労働契約においては、Xの勤務場所を和歌山市とする旨の暗黙の合意がなされていたものと推認するのが相当である。なお、Yの就業規則には、異動に関し、「会社は業務の必要により社員に異動(転勤、配置転換)を命じることがある。この場合正当な理由なくこれを拒否してはならない。」旨の規定(第8条)があるが、この様な就業規則の規定が存在することだけから、直ちに前記の勤務場所についての合意の存在を当然否定しうるものと解すべきでない。しかし、右規定の存在を考慮して本件契約内容をさらに検討すると、前記の契約上の勤務場所の変更は、原則としてXの同意がない限りYが一方的になし得ないものであるが、契約後の事情変更等により、Y側の業務の都合上その勤務場所の変更をしないことが著しく不相当であり、他方、Xが右変更に応じても特に不利益を生じないような事情が生じているなど特段の事情があるときには、勤務場所についてYの一方的変更権を留保したものと解するのが相当である。〈特段の事情については、和歌山業務の事務量はかなり減少していたことが認められるが、現時点で、和歌山業務を廃止することないしはこれに伴いXを大阪業務所に配転することが、Yの企業の合理的運営上不可避の事態となっているものといえるか疑問があるとした上で、〉そうすると、Xの同意のない本件配転について、Yが一方的に右配転をなしうべき特段の事情の存在について疎明がないものといわなければならないから、Xの勤務場所の変更を命じた本件意思表示は、Xのその余の主張について判断するまでもなく、無効であるといわざるを得ない。