協成建設工業ほか事件(出向中の権利義務)

協成建設工業ほか事件(札幌地裁平成10年7月16日判決)
「出向先、出向元ともに、労働安全衛生法第3条の安全配慮義務を負っているとした上で、出向先については過失の存在を認めたが、出向元については、労働者を休職扱いにしていた上、工事の施工方法等について、出向先を指導する余地はなかったとして、責任があるとは認められないとした。」


[事案の概要]
亡Aは、平成2年4月に、建設運送事業を行う者を組合員とする札幌建設運送事業協同組合(Y1)に入社し、同7年7月に、土木建築を主な業とする協成建設工業株式会社(Y2)に出向して、Y2が受注した国道拡幅のための擁壁工事の作業所所長として勤務していた。この工事は、平成7年9月に着工し、同8年3月下旬に完成予定であったが、電柱の移設遅れや豪雪などにより工事の遅れが生じたために工事量を大幅に減らす措置を余儀なくされた。一方亡Aは、この工事の遅れにより時間外労働が急激に増え、工事現場に泊まり込んだり休日出勤をするようになったが、次第に体重の減少や全身の倦怠感、不眠を訴えるようになった。また、家族や周囲の者に工事の遅れを気に病む言動をするようになっていたところ、工事完成の半月前に、Y1の敷地内で自殺した。亡Aの遺族であるXら(妻および子3名)は、亡Aは使用者であるY1、Y2らから、労基法に違反する過酷な労働を強いられた結果、うつ病状態に陥って自殺したものであるとして、被告らに対し、労基法違反および安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求した。


[判決の要旨]
本件工事が豪雪等の影響で大幅に遅れ、休日出勤や時間外勤務の継続を余儀なくされたうえ、Aが自殺する直前の平成8年3月5日ころ、工事量を大幅に減少する変更をしてようやく工期までに完成することができる状態になったこと、Aが家族や周囲の者に対し本件工事が遅れていることを気に病む言動をしていたこと、平成7年12月以後時間外勤務が急激に増加し、平成8年2月及び3月には1日平均3時間30分を超える時間外勤務をしたほか、平成7年12月以後、31日の休日中16日間休日出勤をしたこと、そのため、Aは、平成7年1月ころには体重が約10キログラム減少し、不眠等を訴えて医院を受診するようになったこと、〈中略〉遺書に「仕事をやっていて何がなんだか分からなくなってしまいました。私の管理能力のなさを痛感しています。」「その他関係各社へご迷惑をお掛けして申し分けありません」との記載があること、Aは、胃腸科内科医院で特に異常所見がない旨告げられており、私病が原因で自殺をするとは考え難いことなどの事実を考慮すると、Aは、本件工事の責任者として、本件工事が遅れ、本件工事を工期までに完成させるため工事量を大幅に減少せざるを得なくなったことに責任を感じ、時間外勤務が急激に増加するなどして心身とも極度に疲労したことが原因となって、発作的に自殺をしたものと認められる。〈中略〉Y1、Y2は、Aの使用者として、労働災害の防止のための最低基準を守るだけではなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通して職場における労働者の安全と健康を確保する義務(労働安全衛生法3条)を負っている。そして、会社Y2は、本件工事を請け負い、本件工事遂行のためAを所長として本件工事現場に派遣していたのであるから、適宜本件工事現場を視察するなどして本件工事の進捗状況をチェックし、工事が遅れた場合には作業員を増加し、また、Aの健康状態に留意するなどして、Aが工事の遅れ等により過剰な時間外勤務や休日出勤をすることを余儀なくされ心身に変調を来し自殺することがないよう注意すべき義務があったところ、これを怠り、本件工事が豪雪等の影響で遅れているのに何らの手当もしないで事態の収拾をAに任せきりにした結果、〈中略〉、Aを自殺させたものであるから、会社Y2にはA死亡につき過失が存する。しかし、組合Y1については、Aを在籍のまま会社Y2に出向させているとはいえ、休職扱いにしているうえ、本件工事を請け負ったのが会社Y2であって組合Y1としては本件工事の施工方法等について会社Y2等を指導する余地はなかったと認められるから、Aの自殺について組合Y1に責任があるとは認められない。