国鉄中国支社事件(服務規律・企業外の行動)

国鉄中国支社事件(最高裁昭和49年2月28日第一小法廷判決)
「職場外でなされた行為であっても、企業の社会的評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合は、企業秩序の維持確保のためにこれを規制することが許される場合があるとされ、警察官に暴行を加え公務執行妨害罪が確定したことは懲戒事由に該当し、免職処分は裁量の範囲を超えた違法なものではないとされた。」


[事案の概要]
Y(国鉄)の職員であるXが、文部省等が主催する教育課程研究協議会に対する反対運動に参加した際、現地で警察との衝突があった。その際、警部補Aが、反対運動者が警察官に暴行を加えている場面の写真撮影を部下に命じたところ、その場にいたXは、これに気付いてAを指さし、「こいつを巻き込め」と叫んだ。危険を察知したAが、難を避けようと車道を横断しかけたところ、xは他の反対運動者とともにこれを追いかけ、逃げ場を失い引き返したAの腰部付近に背後から抱き着いて一旦とらえたが、Aはこれを振り切って逃げた。Xはこの行為につき公務執行妨害で起訴され、有罪判決(懲役6か月執行猶予2年)が確定した。その後、Xは、国鉄法第3条1項1号〈懲戒事由として「この法律又は日本国有鉄道の業務上の規定に違反した場合」を挙げている。〉及び懲戒事由を定めた国鉄就業規則第66条17号の「著しく不都合な行いのあったとき」に該当する等として免職処分とされた。なお、Xは、この行為を行った際、他の事件(暴力行為等処罰に関する法律違反)どぇ起訴され、休職中であり、また、本件の所為以前には休職処分が1回、本件の所為後には、懲戒処分が5回の処分歴があった。原判決は、Xの行為は懲戒処分に該当するが、免職処分に処するのは相当とはいえず、無効としている。


[判決の要旨]
使用者がその雇用する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰である。従業員は解雇されることによって、企業秩序の維持確保を図るべき義務を負担することになるのは当然のことといわなくてはならない。ところで、企業秩序の維持確保は、通常は、従業員の職場内又は職務遂行に関連のある所為を対象としてこれを規制することにより達成しうるものであるが、必ずしも常に、右の所為のみを対象とするだけで充分であるとすることはできない。すなわち、従業員の職場外でされた職務遂行に関係のない所為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となり得ることは明らかであるし、また、企業は社会において活動するものであるから、その社会的評価の低下毀損は、企業の円満な運営に支障をきたすおそれなしとしないのであって、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるがごとき所為については、職場外でれた職務遂行に関係のないものであっても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もありうるといわなければならない。そして、Yのように極めて高度の公共性を有する公法上の法人であって、公共の利益と密接な関係を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業の運営内容のみならず、更に広くその事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされるのであって、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されているのであるから、このような社会からの評価に即応して、その企業体の一員であるYの職員の職場外における職務遂行に関係のない所為に対しても、一般企業の従業員と比較して、より広い、かつ、より厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものと考えられるのである。原審確定の本件所為は、職場外でされた職務行為に関係のないものではあるが、公務執行中警察官に対し暴行を加えたというものであって、著しく不都合なものと評価しうることは明らかであり、それがYの職員の所為として相応しくないもので、Yの前述の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるものであるから、、国鉄法31条1項1号及びそれに基づく国鉄就業規則66条17条所定の事由に該当するものというべく、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができるのである。〈本件行為は公務執行妨害に当たる重要な犯罪行為であること、具体的な態様も積極性が認められること、情報収集という公務執行に対する具体的な侵害を伴っていることが窺われる、有罪判決が確定していること、過去の処分歴等の諸事情を総合考慮すると〉本件免職処分の時期が本件所為の時点から隔たりのあること、、Yの職員で公職選挙法違反の罪により、確定の有罪判決を受けた者があるが、その者が免職処分になったことがないことなどXの主張事実を斟酌し、更に、免職処分の選択にあたって特別に慎重な配慮を要することを勘案しても、Yの総裁がXに対し、本件所為につき免職処分を選択した判断が合理性を欠くものと断ずるに足りないものというほかはなく、本件免職処分は裁量の範囲を超えた違法なものとすることはできない。