古賀タクシー事件(配置転換・職種の限定ではない)

古賀タクシー事件(福岡高裁平成11年11月2日判決)
「タクシー乗務員に職種を限定して採用されているものの、タクシー乗務以外の業務に一切就かせないという職種を限定したものではないとして、労働者の同意のない配置転換命令を有効とした。」


[事案の概要]
Xは、Y社のタクシー乗務員に応募し、採用された。その際、会社側から、「将来は観光タクシーやジャンボタクシー(家族旅行等の用途に使用されていた。)に乗ってもらいたい、整備見習いをしながら職業訓練校に通ってもらいたい、免許取得費用は会社が負担する」などと話があり、Xからは、観光タクシーにも乗ってみたい旨の発言があった。採用後、Xは、タクシー乗務のほかに得意先等への粗品の配布、時刻表の配布、配車の手伝い等の業務を分担していた。Xは、乗務員としての成績があまり芳しくなく、月によってを売上順位が最下位を記録することもあり、勤務当日に欠勤することも多かった。Y社においては、営業担当者1名が入院し、それが長期化することが判明したため、営業係(業務内容は、事故処理、運行管理、配車、休車が出た場合のタクシー乗務、ジャンボタクシーの乗務、新聞・時刻表の配布等である。)の担当者を1名補充する必要性が生じた。Yは、右の必要性と売上成績等を考慮し、Xを営業係に移るよう命じた。Y社においては、勤務時間については、乗務係は、30日を単位に、13日の非番、15日の午前から深夜までの勤務及び2日の一日勤務で構成されており、営業係は、日中勤務と一日勤務を交互に行うことで構成されていた。また、賃金については、乗務係は固定給と歩合給で構成されていたが、営業係は固定給のみから構成されていた。


[判決の要旨]
Y会社が労働契約を締結する際に作成する労働契約書には、乗務員向けのもの(表題は「労働契約書(乗務員)」)とそれ以外の従業員向けのもの(表題は「労働契約書(社員)」)とがあり、前者の労働条件欄には、業務内容・就業場所として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務、会社の事業区域を根拠とした営業区域内」と不動文字で明記され、労働時間、賃金等の内容が具体的に記載されているのに対し、後者では、就業場所及び従事業務欄に内容を記載するようになっているほかは、就業規則等の定めによるものとされていることが認められる。そして、乗務係と営業係の勤務体系、賃金等の労働条件及び業務内容は、前記のとおり異なることからすれば、乗務係と営業係の従業員は、採用時点から職制が区別されており、その職務内容も異なるものというべきである。そうすると、本件命令は、乗務係の乗務員として採用されたXを、営業係という異なる職務に就かせる配置転換を命じたものと認めるのが相当であ〈る。〉Y会社の就業規則によるに、乗務員の職務の性質から特有のもの(例えば、無線の呼出しに対する応答、自動車運転免許証の携帯等)や、乗務員服務規程の遵守を定めた規定(11条)のほかは、職種に限定した定めはなく、異動・出向に関する規定(18条)においても「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、職場、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と定められており、乗務員とそれ以外の従業員との間の区別はされていない。また、証拠によれば、Y会社とXとの間の労働契約においては、労働条件の詳細は就業規則によるものとされ、Xは、その遵守を誓約していることが認められる。また、営業係の業務は、前記のとおりタクシー乗務と密接に関連するものであり、特に、Y会社においては、ジャンボタクシーの乗務は主に営業係の担当とされていることにかんがみれば、Y会社との間で締結される乗務員としての労働契約は、タクシー乗務以外の業務に一切就かせないという職種を限定した趣旨のものではなく、雇用後相当期間経過後の経営管理上の諸事情に照らして、Y会社において業務上の必要があるときは、従業員の同意なくして配置転換を命ずる権限が留保されているものと解するのが相当である〈中略〉。従業員に対する配置転換の命令は、従業員の生活関係に多大の影響を与えるのが通常であるから、労働契約に準拠する場合であっても無制約に認められるものではなく、本件命令の効力に即していえば、Y会社における業務の必要性と、同命令によりXが被る職業上又は生活上の不利益を比較考量して、その効力を判断すべきであり、これがY会社の裁量の範囲を逸脱するものとして権利濫用に当たる場合には、本件命令は無効となるものと解するのが相当である〈本件配転命令については、Yにおいて営業係を補充する業務上の必要性があったこと、Xは、労働契約を締結する際、将来観光タクシーやジャンボタクシーに乗ることに拒絶反応を示さなかったこと、Xはジャンボタクシーに乗務した実績もあること、Xの小型タクシー乗務員としての売上成績が低迷していたこと、Xが配転を拒否する理由は、性格的に向かないという主観的なものにとどまること、乗務係と営業係の勤務、賃金等の労働条件の差異からすれば、Xが職務上又は生活上、特段の不利益を被るものとはいえないことを認めた上で、〉Xを乗務係から営業係に配置転換する旨の本件命令は、Y会社の業務の必要上合理性のあるものであり、Xに職務上又は生活上、特段の不利益を被らせるものと認めることはできない。また、Y会社の裁量の範囲を逸脱し、権利の濫用になると認めることもできない。