ネッスル事件(懲戒の種類・内容と手続)

ネッスル事件(東京高裁平成2年11月28日東京高裁判決)
「使用者は(懲戒処分とは異なる)業務命令としての出勤停止(自宅待機)を命じることができるが、労働契約上要請される信義則に照らし、その権限は合理的な制約に服するものとされた。」


[事実の概要]
食料品の製造販売を業とするY社においてセールスマンとして勤務していたX(妻帯者)は、Y社に派遣されていた訴外Aと交際するようになった。Aにはかねて交際中のBがおり、BはXとAの関係を知り、Y社、X、Xの勤務する出張所長Cらを脅迫するに至った。また、Xを誹謗中傷する文書がY社の取引先に出回った。そこでCは、口頭でXに対し、「当分の間自宅で待機していて欲しい」と告げた。その後、Y社はXに対する自宅待機を解除せず、2年間が経過したことから、Xは当該自宅待機命令が無効であることの確認及び慰謝料等の支払を求めて出訴した(Y社はXの出訴後、Xを転勤させる旨の命令を行っている。また、Y社は自宅待機期間中、Xに対して賃金、賞与を支払っていた)。1審はXの請求を棄却したため、Xが控訴したものである。


[判決の要旨]
〈諸般の事情を考慮すれば〉Y社が、Xに対し、業務上の必要性から、自宅待機を命ずることも、雇用契約上の労務指揮権に基づく業務命令として許されるというべきである。しかしながら、Y社が、業務命令として自宅待機を命ずることができるとしても、労働関係上要請される信義則に照らし、合理的な制約に服すると解され、業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず、自宅待機を命じあるいはその期間が不当に長期にわたる等の場合には、自宅待機命令は、違法性を有するものというべきである〈中略〉。本件自宅待機命令は、昭和60年5月9日に本件転勤転勤命令が通告されるまで約2年間にわたって続いたことは当事者間に争いはないが、〈Xの言動等を勘案すると、Xをセールスマンとして勤務させることによりY社の信用が損なわれる結果になりかねなかったのであるから、〉Xに対し長期間自宅待機を命ずる業務上の必要性があったというべきである。よって、本件自宅待機の期間が2年間の長期にわたったとしても、これをもって、本件自宅待機命令を違法とするには足りないという外ない。