ニシデン事件(出向中の権利義務)

ニシデン事件(東京地裁平成11年3月16日判決)
「出向元が賃金の支払を拒むには、出向に際して、賃金などを負担するのは出向先であるとの明示的又は黙示的な合意が認められなければならないとした。」


[事案の概要]
会社Yは、香港及びシンガポールの現地法人である子会社(それぞれA、B)で勤務させるために、原告X1ら3人を採用した。X1ら3名は、採用後、直ちに現地に赴任して子会社に勤務していたが、Y1から平成10年9月10日付の辞令によって同日付をもって解雇する旨が通知された(以下、本件解雇通知)。しかし、Y1は同月22日、X1らは子会社に転籍しており解雇を通知したことは間違いであったとして、本件解雇通知を撤回した。X1らは、子会社での勤務は出向であるとして、Y1に対し未払賃金等の支払を求めたものである。


[判決の要旨]
1 X1らの子会社での勤務は出向かそれとも転籍か、について〈X1らに対する子会社での勤務を命じる辞令や労働条件の変更に関する書面等は、X1らとYの間に雇用契約が存在することを前提として作成されたというべきであり、仮に雇用契約が終了しているとするならば、なぜこうした書面がYによって作成されたのかその理由や経緯が明らかにされなければならないのに全くその説明がされておらず、さらに本件解雇通知の撤回理由についても、間違えて解雇を通知した理由等について全く説明がないことから、〉X1がAを経由してBで勤務を開始し、X2及び同X3がBで勤務を開始した後もX1らとYとの間の雇用契約は合意解除されず、X1らがファックスにより送信された平成10年9月10日付けの辞令を受け取るまでは存続していたものと認められる。


2 Yは、未払賃金(未払の月額給与及び夏期手当)について支払義務を負うか、についてX1らが主張立証責任を負うところのX1らとYとの間の雇用契約の成立が認められ、Yが主張立証責任を負うところの右の雇用契約の終了が認められないのであるから、YがX1らの請求に係る未払賃金(未払の月額給与及び夏期手当)の支払を拒むには、Bへの出向に際してX1らとYとの間においてX1らの賃金などを負担するのはBであるとの合意が成立したこと(右の合意を以下「本件合意」という。)が認められなければならないと解される。なぜなら、X1らとYとの間の雇用契約が存続している以上、YはX1らとの間の雇用契約に基づいて賃金などを支払う義務を負っているのであり、出向期間中にX1らの賃金などを負担するのが誰であるかは出向に際してのX1らとYとの間の明示的又は黙示的合意の内容によって定まるものであるから、X1らがBと雇用契約を締結したというだけではYはX1らに対する賃金などの支払義務を当然に免れるわけではなく、出向期間中のX1らの賃金などを負担するのがBであることが出向に際してのX1らとYとの間の明示的又は黙示的合意とされて初めてYはX1らに対する賃金などの支払義務を免れることができるからである。〈本件では、明示的な合意が成立しているとは認められず、また出向期間中もYがX1らの賃金額を決定し、X1については採用通知書に決められた賃金相当額等が、Yから平成10年7月まで銀行口座に振り込まれていたことから黙示的合意の成立も認められないとして、〉X1らとYとの間で本件合意が成立したことを認めることはできない。そうすると、YはX1らの請求に係る未払賃金(未払の月額給与及び夏期手当)の支払を拒むことはできない。