横浜セクシュアル・ハラスメント事件(出向中の権利義務)

横浜セクシュアル・ハラスメント事件(東京高裁平成9年11月20日判決)
「賃金は出向元が支払っていたが、出向先の就業規則を適用する旨定めていた場合において、事業の執行に当たっては、出向先の指揮監督を受けていたというべきであるから、民法第715条に基づく使用者としての責任は出向先が負うべきとした。」


[事案の概要]
Y2会社はY3会社の全額出資による子会社である。Y2会社の女子社員であるXは、上司であり、Y3からY2に在籍出向中のY1から一連のセクシュアル・ハラスメントを受け、退職に追い込まれたとして、Y1に対して性的自由、働く権利及び名誉を侵害されたとして不法行為に基づき、Y2及びY3に対しては使用者責任または不法行為に基づき、損害賠償を求めるとともに、Y2及びY3に対して不法行為に基づき謝罪広告の掲載を求めた。


[判決の要旨]
〈Y2の使用者責任の成否について〉Y1は、Y2への在籍出向を命じられ、機電事業部長兼横浜営業所長として、Y2の事業を執行していた者であり、事業の執行に当たっては、Y2の指揮監督を受けていたというべきであるから、民法715条の適用上は、Y2の被用者に当たるものと解されるところ、(中略)Y1のXに対する不法行為は、いずれも、事務所内において、営業所長であるY1によりその部下であるXに対し、勤務時間内に行われ、又は開始された行為であり、Xの上司としての地位を利用して行われたものというべきであるから、Y1の右不法行為は、Y2の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為というべきである。Y2は、Y1の行為は個別的な行為で職務と何ら関係なく行われたものである旨主張するけれども、右に判示したようなY1の行為の外形から見て、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為と判断すべきものである以上、そのような行為に出た動機がY1の個人的な満足のためのものであったとしても、そのことは右認定を左右するものではない。したがって、Xに対する不法行為を構成するY1の行為は、いずれも同人がY2の事業の執行につき行ったものであるから、Y2は、民法715条に基づき、Y2の使用者として、損害賠償責任を負うというべきである。〈Y3の使用者責任の成否について〉民法715条にいう使用関係の存否については、当該事業について使用者と被用者との間に実質上の指揮監督関係が存在するか否かを考慮して判断すべきものであるところ、Y1はY2会社の事業の執行についてはY2会社の指揮監督を受けていたものであり、Y1はY3会社の社員であって、Y3会社から給与の支給を受けていたものの、Y3会社からは出向期間の定めなくY2会社に出向し、その間休職を命ぜられており、Y3会社から日常の業務の遂行について指示を受けることはなく、Y2会社がY1に対する業務命令権及び配転命令権を有していたということができる。さらに、Y2会社は、Y3会社の100パーセント出資の子会社であるとはいえ、独立採算制が採られ、Y3会社からの出向社員の給与に相当する金額は技術指導料の名目でY3会社に支払われていて結局Y2会社の負担に帰しており、その売上げに占めるY3会社との取引の割合や全社員中の出向社員の比率からみても、Y3会社とは独立した別個の企業として経営されていたものというべきであって、Y2会社の事業がY3会社の事業と実質的に同一のものあるいはその一部門に属するものであったとみることもできないし、特に、Y1が携わっていた商品の製造販売は、Y1独自の業務として行われていたものである。右のような事情の下では、Y3会社がY1に対する実質上の指揮監督関係を有していたと認めることはできない。(中略)民法715条の適用の上では、Y1がY3建設の被用者であったということはできず、Y3建設は、Y1による不法行為について、使用者責任を負うものではないというべきである。