杤木合同輸送事件(出向中の権利義務)

杤木合同輸送事件(名古屋高裁昭和62年4月27日判決)
「出向労働者と出向先との関係は、出向元との間に存する労働契約上の権利義務が部分的に出向先に移転し、労働基準法などの部分的適用がある法律関係(出向労働関係)であるとした。」


[事案の概要]
Xは、港湾運送事業、倉庫業等を営む株式会社であるYに海運株式会社Aから出向し、艀船員として勤務し、また、YのB労働組合(以下、B組合)に加入していたところ、脱退届を他のYの従業員とともに提出し、別組合に加入した。これに対し、B組合は、ユニオンショップ制を定めた労働協約9条に基づき、Xらを解雇するように要求したので、Xは、Y、A両社から解雇された。これに対し、Xは同人の出向は在籍出向ではなく、転籍であり、Yの従業員たる地位の確認を求めた。


[判決の要旨]
〈A社の就業規則第11条には、「会社は業務の都合により団体組合又は関連会社に出向を命ずることができる。従業員は正当な理由なくしてこれを拒むことはできない。」との規定が存在すること、第12条には、「前条により出向を命ぜられた者の取扱いは別に定める出向者取扱規程による。」との規定が存在するが、この出向者取扱規定はいまだ制定されていないこと、A社からY社に対しての出向者については、賃金、退職金、有給休暇等について、一定の決まった取扱いがなされていること、A社の人事課長は、Xに対し、艀部門廃止の理由を説明するとともに、従来どおり艀に乗りたいのであれば、Yに移って欲しい旨伝え、Xは、退職金は貰わずにA社に籍を置いたままYに出向する旨答えたこと等を認めた原審を引用した上で、〉当裁判所もXはA社からYに出向した社員であつて、Yとの間には労働契約が存せず、出向労働者としてYの指揮に従い労務を提供して賃金支払を受けることを主とした関係を有したに過ぎないものと考える〈中略〉。Xはまた、Xが出向労働者であるというだけで、出向先たるYとの間に労働契約の存在を否定すべきではなく、仮に在籍出向とみられる場合でも、むしろ出向元たるAとの間に存するそれと並んで二重の労働契約関係を認めるべきだと主張する。しかし、なるほど、なかには出向先企業と出向労働者との間に、単に日常の労務指揮の服従関係(これが通常の出向労働者と出向先との関係である。)以上の関係たる雇用契約関係の存することが、出向元、出向先、労働者の三者の実態関係に即して認められる場合もありうるかもしれない(例えば、出向の例ではないが、神戸地裁昭和47年8月1日判決・労働判例161号30頁の事案は、単に労働者の供給のみを目的として独自の企業活動を行わない下請業者に雇われたうえ、その親会社に派遣された労働者と右親会社との間に黙示の雇用契約関係が認められた例である。)が、これを一般の場合に常にそうだとすることは、出向労働者にとって出向元・出向先間の通常複雑な権利義務の分担関係にかんがみ、自己の権利義務がかえって不明確になるおそれもあるし、多くの場合出向の実態とも添わないこととなろう。むしろ通常の場合は、出向労働者と出向先との関係は、出向元との間に存する労働契約上の権利義務が部分的に出向先に移転し、労働基準法などの部分的適用がある法律関係(出向労働関係)が存するにとどまり、これを超えて右両者間に包括的な労働契約関係を認めるまでには至らないものというべく、本件も、前認定の事実その他本件証拠に現れたYとXの関係のみでは、未だその例外ではないと解せられるのである。