日産自動車事件(配置転換・職種の限定ではない)

日産自動車事件(最高裁平成元年12月7日第一小法廷判決)
「20年近く機械工として勤務していたが、職種限定の黙示の合意は成立していないとされた。」


[事案の概要]
Yは、乗用車等の販売を業とする会社であり、かつてA会社(旧社名はB社)を吸収合併した。

Xらは、A又はBに機械工として採用され、10数年から20数年にわたって機械工として就労してきた。Xが勤務していたYのM工場においては、生産体制の変更により、Xらがそれまで機械工として就労していた車軸製造部門が大幅に他工場に移転され、従前と同じ仕事はなくなることとなり、Yは、Xらに対して、組立作業等への配転を命令した。なお、生産体制の変更後にも、M工場には、機械加工の職場が一部残存し、同職場で就労している機械工が少なからずいる。

[判決の要旨]
XらとA株式会社若しくはB株式会社又はYとの間において、Xらを機械工以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が明示又は黙示に成立したものとまでは認めることができず、Xらについても、業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更等を命令する権限がYに留保されていたとみるべきであるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。[原判決の要旨]Xらは、A又はBに機械工として採用され、Yによる合併の前後を通じ10数年間から20数年間ほぼ継続して機械工として就労してきたものであることは明らかであるが、右事実のみから直ちに、XらとA若しくはB又はYとの間において、Xらを機械工以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が明示又は黙示に成立したものとまでは認めることができない。〈A、B及びYのいずれの就業規則においても、業務上の必要があるときは従業員に対し配転を命ずることがある旨の規定があることを認定した上で、〉本件配転前にも機械工を含めて職種間の異動が行われた例のあることが認められること、並びに我が国の経済の伸展及び産業構造の変化等に伴い、多くの分野で職種変更を含めた配転を必要とする機会が増加し、配転の対象及び範囲等も拡張するのが時代の一般的趨勢であることなどに鑑みると、Xらについても、業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更等を命令する権限がYに留保されていたとみるのが、雇用契約における当事者の合理的意思に沿うものというべきである。労働者にとつて、職種の如何は就労場所等とともに重要な労働条件をなすものであり、殊に本件のように長年従事してきた職種を変更するときは労働者の利益に重大な影響を与えることになるから、職種変更の命令権は安易に行使すべきものではなく、これを濫用することが許されないことはいうまでもないところであるが、雇用契約において職種変更命令権が留保された趣旨に照らせば、職種変更を行うことが企業の合理的運営に寄与するなど当該職種変更命令を発するについて業務上の必要性が存在し、かつ、その命令が他の不当な動機、目的をもってなされたとか、又は労働者に対して通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせることになるなどの特段の事情がない限りは、当該職種変更命令は権利の濫用になるものではないというべきである。〈本件の配転について、何らかの不当な動機又は目的をもつて行われたものであることを認めるに足りる証拠はないとした上で、〉本件配転を含めて昭和56年6月から昭和57年3月までの間に行われた一連の異動は、従来M工場で担当していた自動車の車軸製造部門をT工場等に移転し、新たにM工場で新型車を製造することにした生産体制変更計画に基づくM工場内の従業員の大幅な配置替えであるところ、Yがかかる生産体制の変更を計画したのは、世界の自動車業界における車両の小型化及び駆動装置のFF〈前輪駆動〉化に対応するためであり、国の内外において競争の激しい自動車業界にその地位を占めるYとしては、経営上必要な措置であつたと認めることができる。したがつて、これに伴う従業員の右異動も企業の合理的運営に寄与するものということができるが、既にみたように、M工場の車軸製造部門の縮小による異動対象者が500名近くの多数にのぼり、通勤可能圏内の他の職場でこれを受け入れる余裕がなく、一部の者のみについて他の職場の従業員との入替えを行うことも、手数がかかるだけでなく公平確保上の理由から困難であるとされる一方で、M工場における新型車の生産要員として異動対象人員を超える数の従業員を必要とすることになつたなどの諸事情を考慮すると、Yが右異動を行うに当たり、対象者全員についてそれぞれの経験、経歴、技能等を各別に斟酌することなく全員を一斉にM工場の新型車生産部門へ配置替えすることとしたのは、企業経営上の判断としてあながち不合理なものとはいいがたく、その異動対象者中にXらのように長年他の職種に従事してきた者がいることを考慮してもなお、労働力配置の効率化及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置として是認しうるものである。以上の諸点から判断すると、本件配転命令がYの配転命令権の濫用に当たるものであると認めることはできないというべきである。