国際タクシー事件(労働契約に伴う権利義務・兼業禁止義務)

国際タクシー事件(福岡地裁昭和59年1月20日判決)
「タクシー運転手の新聞配達業務への従事について、出勤前に新聞配達に従事していた時期については会社への労務の提供に格別支障を生じず兼職禁止規定に該当しない一方、出勤・出庫後に新聞配達に従事していた時期については企業秩序に影響を及ぼし労務の提供に支障を来たすとして兼職禁止規定に該当するとされたが、これを理由とする懲戒解雇は、労働者の不利益が著しく大きく、解雇権の濫用として無効とされた。」


[事実の概要]
Yは、タクシー営業を目的とする株式会社であり、Xは、昭和52年4月1日、Y会社に入社し正社員として雇傭されていたものである。Xは、昭和55年7月から、父親の経営する新聞販売店において、新聞配達、集金等の業務を手伝っていたところ、昭和56年4月16日、Yは、Xに対し、Xの当該兼業が就業規則第35条第19号(会社の許可なく臨時又は常傭を問わず他に雇用されないこと)等に違反するとして、同年4月13日付文書でXを懲戒解雇するとの意思表示をした。


[判決の要旨]
昭和55年7月から同年10月までの新聞販売業務について、Y会社における就業規則35条19項の会社の許可なく臨時又は常傭を問わず他に雇用されないことという兼職禁止規定の適用にあたっては、一般に、労働者は労働契約に定められた時間、場所において、契約に定められた労働を提供する義務があるが、時間外においては、特約なき限り他の者のために働いてはならない義務はないこと、Y会社の右就業規則においては、兼職禁止規定違反の制裁は、懲戒解雇という重い処分のみとされていることなどに照らすと、右兼職禁止規定に違反するのは、会社の企業秩序を乱し、会社に対する労務の提供に格別の支障を来たす程度のものであることを要すると解すべきである。右の解釈を前提に本件につきみるに、Xの新聞販売店業務は、X自身は新聞販売店経営を父親から引き継ぐ意思はなかったものの、配達、集金業務を安心して任せられる者が他にいないとしてXの父親から配達、集金の手伝いを強く懇請された経緯などから見て、単に一時的な手助けを超えて、相当期間継続して従事する前提のもとに従事していたものである。しかし一方、前記認定のように、新聞販売店の実質上の経営者はXの父親であり、Xが新聞販売業に従事するようになった動機は高齢の父親からの懇情でやむを得ず引き受けたものであることや、この時期Xが従事した時間は、乗務日においてはY会社における所定始業時刻である午前7時30分(就業規則第14条)より前の約2時間であり、月収も6万円と比較的低額であったことなどに照らすと、Xのこの時期の新聞販売業務は、いまだ、Y会社への労務の提供に格別支障を生ずるものではないものと認められるから、兼職禁止規定に違反するものと認めることはできない。同年11月から昭和56年3月までの新聞販売業務について、Xは、この時期には、通常の始業時間より早く、午前4時3分にタクシーを出庫させて新聞販売に従事していたものであるが、Y会社では、いわゆる36協定で3時間の時間外超過勤務を取り極めており、右午前4時30分からの出庫は、勤務時間として認められる趣旨であると解される。したがって、Xが、午前4時30分に出庫させて後新聞配達に従事していたのは、Y会社の勤務時間内であるといわねばならない。また、この時期の月収は15万円であり、この額は、XのY会社における運収と比較しても、勤務時間に比してかなりの高額であると認められる。さらに、この時期のXの新聞販売行為についてはYは許可を与えていないと認められる。右各事実を総合すれば、この時期のXの新聞販売業への従事にY会社の許可がなく、しかも企業秩序に影響を及ぼし、労務の提供に支障を来たす程度に達していると認められるから、兼職禁止規定に該当するものというべきである。<解雇権の濫用について>以上の事実に、Xが新聞配達業務に従事することにより、Yの営業、業務管理等に具体的な悪影響を与えた旨の疎明のないことをあわせ考えるとXのこの時期の新聞販売業への従事が、兼職禁止規定に該当するとしても、これを理由に懲戒解雇まですることは、Xの蒙る不利益が著しく大きく、解雇権の濫用として許されないところというベきである。