レストラン・スイス事件(労働契約に伴う権利義務・就労請求権)

レストラン・スイス事件(名古屋地裁昭和45年9月7日決定)
「調理人としての技量は少時でも職場を離れると著しく低下するものであることから、本件労働者は業務の性質上労務の提供につき特別の合理的な利益を有する者として就労請求権を有するとされた。」


[事実の概要]
Xは、昭和43年3月25日に飲食店を営むYに調理人として雇用され勤務していた者であるが、同年5月上旬に、Yの代表者が経営するA飲食店が人手不足のため同店で働くよう命ぜられ、これを拒否した。その後の同年5月10日、Yは、Xが業務上の指示命令に不当に反抗し、職場の秩序を乱し、Yの業務を妨害したとして、Xを解雇する旨申し渡した。


[判決の要旨]
<Xに対するA飲食店への出向命令は、XとYとの労働契約により定められた労働力処分権の範囲を超えたものでありXの同意がない以上無効であって、これに従わなかったことを理由とする本件解雇も無効であるとした上で、>就労請求権の存否について判断するに、労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令に従って一定の労務を提供する義務を負担し、使用者はこれに対し一定の賃金を支払う義務を負担するのであるから、一般的には労働者は就労請求権を有しないと解されるが、労働契約等に特別の定めがある場合又は業務の性質上労働者が労務の提供について特別の合理的な利益を有する場合はこれを肯認するのが相当である。これを本件についてみると、Xが調理人(コック)であることは前記のとおりであり、調理人はその仕事の性質上単に労務を提供するというだけではなく、調理長等の指揮を受け、調理技術の練磨習得を要するものであることは明らかであり、X本人、Y代表者各尋問の結果によれば、調理人としての技量はたとえ少時でも職場を離れると著しく低下するものであることが認められるから、Xは業務の性質上労務の提供につき特別の合理的な利益を有する者と言って差支えなく、XはYに対し就労請求権を有するものと考える。