崇徳学園事件(懲戒権の濫用)

崇徳学園事件(最高裁平成14年1月22日第三小法廷判決)
「法人の事務局の最高責任者が会計処理上違法な行為を行い、法人に損害を与えた行為について、法人が同人を懲戒解雇したことは、客観的にみて合理的理由に基づくものであり、社会通念上相当であるとされた。」


[事実の概要]
中学校及び高等学校を運営する学校法人Y学園に、長期計画推進室長として雇用されたXは、採用後約半年後からY学園の法人事務次長を兼務していた。兼務開始から約半年後、Y学園は、Xが法人事務次長として、(1)台風災害復旧工事に関して法人事務組織規程、決済規程、経理規定等に違反し、適切な事務処理、会計処理を行わず、特定企業(A社)に工事代金の不当な水増し請求を行わせるなど、その任に背き、Y学園に損害を与えた、(2)リース契約に関し、必要がないのにA社を介在させ、虚偽の契約をさせるなどして不当な利益を得させた、(3)職務専念義務に反するなど、日常の勤務態度が劣悪であった、等を理由として、就業規則に照らし、懲戒免職処分とした。Xはこれを不当として従業員たる地位の確認、賃金等の支払いを求めて出訴した。1審は、法人の重要な地位にあるXには(1)の背任行為のみでも懲戒免職処分に値するとして、Xの請求を棄却した。反対に2審は、(1)及び(2)についてXのみに責任を負わせることはできず、A社に不当な利益を得させる目的がなかった、(3)についてのXの勤務態度は劣悪とまではいえないとして、Xの懲戒免職処分を無効と判示した。これに対してY学園が上告したもの。


[判決の要旨]
〈経理面で規程に沿わずに簡易な支払い方法がとられていたが〉、これを実行させたのはXであり、それが理事長の意向に沿ったものとしても、適正な会計処理に直結すべき正規の決済手続きを行わなかった責任は、Xにあるといわざるを得ない。Xが経理課長の上司である事務局次長という要職にあり、本件復旧工事の処理の担当とされていたことを考えれば、適正な会計帳簿を作成しなかったことについて経理課長に責任があるなどの事情があったとしても、Xの責任が軽減されるものではない。Xの各行為は、生徒の父母、学校関係者、監督行政庁、さらには社会一般から、Y学園が不正行為を行っているという疑惑を招くことを避けられないものであって、著しく不相当な行為である。その結果、Y学園の関係者から、本件復旧工事に関連する保険金の支払い方法につき、Xが不正な行為をしているのではないかとの指摘等がされ、県知事が、Y学園に対し、本件台風被害に係る保険金収入及び本件復旧工事代金の支払いを学校会計に計上していないこと等が法令及び寄付行為に違反するとの指摘を行い、改善実施計画等を作成して提出するように求め、Y学園に対する補助金の交付を保留することとしたのである。これらによれば、Xは、Y学園が著しく不相当な行為を行ったとして社会一般から非難され、信用を失墜したことについて、責任を免れない。Xは、法人事務局次長であり、職員としては法人事務局の最高責任者であったのに、会計処理上違法な行為を行い、Y学園の信用を失墜させ、Y学園に損害を与えたのであって、その責任を軽視することはできない。原審が挙げるような事情によって、Xの責任が軽減されるということはできない。また、Xは、特定の業者に契約に基づかない利益を与えて、これと深い結びつきを持ったと見られてもやむを得ない。そうすると、Y学園がXに対し本件懲戒免職に及んだことは、客観適にみて合理的理由に基づくものというべきであり、本件懲戒免職は、社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものということはできない。