光洋精工事件(人事考課・昇格)

光洋精工事件(大阪高裁平成9年11月25日判決)
「人事考課については、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできないというべきであるとした。」


[事案の概要]
Xは、昭和45年8月11日、各種ベアリング・ステアリング等の製造販売を営んでいる株式会社Yに入社し、以後、工員として専ら単純な反復作業に従事していた。Yは、昭和56年から段階的に職能資格等級制度を導入し、右制度は、昭和57年10月1日付けでXのような一般従業員にも適用されるようになった。同日付けのXの等級は9級であった。Xは、平成2年4月1日付けで、8級に進級し、平成7年2月に定年を迎え、8級のまま退職した。Xは、YがXの人事考課をするに当たり、裁量権を逸脱・濫用した結果、賃金・退職金が、同僚に比して低く抑えられたとして、損害賠償を請求した。


[判決の要旨]
当裁判所もXの本件請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加するほかは、原判決が説示するとおりであるから、これを引用する。Xの主張は、Yの人事考課が裁量権を逸脱・濫用しているというものであるが、人事考課は、労働者の保有する労働能力(個々の業務に関する知識、技能、経験)、実際の業務の成績(仕事の正確さ、達成度)、その他の多種の要素を総合判断するもので、その評価も一義的に定量判断が可能なわけではないため、裁量が大きく働くものであり、組合間差別の不当労働行為のように大量観察を行うことにより有意の較差が存在することによって人事考課に違法な点があることを推認できる場合は別として、個々の労働者についてこれを適確に立証するのは著しく困難な面があることはいうまでもない。さらに、本件においてXの主張する人事考課の違法は、昭和57年10月1日の一般職員への職能資格給導入時点に遡り、平成7年の退職時までの長期間にわたるもので、前記の人事考課の性質からいって、個々の人事考課がなされた根拠を後日明らかにするのはかなりの困難を伴うものであるし(人事考課担当者の証言が多少曖昧であったとしても、前記の人事考課の性質からいえばやむを得ないことであって、このことから直ちに人事考課が不当になされたと認められるものではない。)、他方、当時自分は成績優秀であったと人事考課の対象であった労働者が述べても、それ自体の証拠価値は極めて乏しいといわざるを得ない場合が多いのであって、人事考課の適否を巡る立証には難しい点があることは否定できない。しかし、いずれにしても、人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできないというべきであるが、本件においては、各証拠によるもこれらの事情が存在したと認めることはできない。[原判決の要旨]職能資格等級制度は、年功序列制度と異なり、人事考課によって、同等の勤続年数の従業員間に差がでることを当然に予定していること、Xは、Y在勤中、組合活動等Yから嫌厭されるような行動をとったことはなく、Yには、Xに対し、ことさら不利な人事考課をすべき動機が見あたらないこと、統計的に見ると、Xは、中途入社したことから退職までの勤続年数が24年6か月であって、他の退職者の平均勤続年数より約9年短く、Xより勤続年数の長い従業員が多数Xと同じ級に格付けされており、Xの格付けが特に低いものとは認められないこと、及び、平成4年4月以降については、Xは、不良品を出すなど作業能率が高かったとはいえず、協調性、積極性等に問題があり、職能資格等級制度導入時については、Xの人事考課資料が提出されていないものの、平成4年4月以降と同様であったと考えられることに照らすと、YのXに対する人事考課に、裁量権の逸脱・濫用があったとは認めることができない。