日本テレビ放送網事件(配置転換の制限・職種の限定)

日本テレビ放送網事件(東京地裁昭和51年7月23日決定)
「アナウンサー試験に合格し、20年近くアナウンサー業務に従事していた。」


[事案の概要]
Yは、放送事業者であって、テレビの放送を主たる目的とする株式会社であり、Xは、Yと労働契約を締結して以来、Y会社アナウンス課の従業員としてテレビ放送のアナウンス業務に従事してきた。Yは、Xに対し、Y会社審査室考査部勤務を命ずる旨の配転命令を発した。


[決定の要旨]
〈アナウンス業務は、日本語その他の放送用語についての正確な知識、一般的な教養、社会常識等はもとより、アナウンサーに独特の技術、能力を要求されるとともに、タレント性をも必要とする高度に専門的な業務であり、しかも、これらの知識、技術、能力等は、アナウンサー自身の不断の努力、訓練と長年の実地の経験とによってはじめて獲得され増進されるものであること、Xは、大学在学中より放送研究会アナウンス部に所属して、アナウンサーに必要な知識、技術、能力等を磨いていたこと、Xは、Yが行った女子アナウンサー採用のための公募に応じ、女子アナウンサーとしての能力、適性の選別に重点を置いて実施された選考試験に合格して、アナウンス課の従業員に採用されたこと、Yは、従業員新規採用選考試験としては、右の女子アナウンサー選考試験のほかに、編成要員及び技術要員の選考試験をほぼ同時に実施したが、これらの選考試験はそれぞれ別個の目的および内容を有するものであって、単に女子アナウンサーの選考試験と編成要員の選考試験との学力筆記試験の内容が共通であったにすぎないこと、Xら女子アナウンサー選考試験の最終合格者は、いまだ採用内定の段階から約4か月間、Yから女子アナウンサーに必要な特別の教育、訓練を受けたこと、Xは、アナウンス課の従業員に採用されてから本件配転命令を受けるまでの約17年間、一貫して同じアナウンス課に所属し、テレビ放送のアナウンス業務のみに従事してきたこと、少なくともアナウンス課所属の従業員については、これまで、従業員本人の承諾を得ないで、職種の異なる他の業務への配転を命ぜられた事例は存在しないことを認定した上で、〉Xが労働契約締結の際にYに対しテレビ放送のアナウンス業務以外の業務にも従事してよい旨の明示または黙示の承諾を与えているなどの特段の事情の認められないかぎり、Xは、Yとの間に、テレビ放送のアナウンス業務のみに従事するという職種を限定した労働契約を締結したものであって、その後Xが個別に承諾しないかぎり、Y会社におけるその余の業務に従事する義務を負わないものと解すべきである。そして、本件の全疎明資料を検案しても、Xが労働契約締結の際にYに対しテレビ放送のアナウンス業務以外の業務にも従事してよい旨の明示また黙示の承諾を与えているなどの特段の事情は認められない。そうすると、Xがその後個別に承諾しないかぎり、Yは、Xに対し、テレビ放送のアナウンス業務以外の業務に従事することを命ずる労働契約上の権利を有しないものといわなければならない。なお、〈中略〉Y会社の職員就業規則第38条は、従業員(職員)の転勤、転職等につき、「会社は業務に必要あるときは職員に転勤、転職または社外業務に出向を命ずることがある。出向の際の取り扱いは別に定める。」と規定していることを認めることができるけれども、この就業規則の規定が右に述べたような職種を限定した労働契約に優先して適用されその契約の効力を失わせると解すべき根拠は全く考えられないから、この規定の存在は右に述べた結論を左右するに足りるものではない。けだし、前記のとおりXが考査部への配転を承諾した事実が認められない本件においては、YがXの配転の理由として主張する事実をもってYの承諾に代置することができないかぎり(本件においてはそのような代置は不可能というべきである。)、本件配転命令は、その合理性の有無を問題にするまでもなく、その効力を有しないものといわざるをえないからである。以上において判断したところからすれば、本件配転命令はXの意思を無視してなされたものであるから無効であるというXの主張は、その理由があり、したがって、Xは何ら本件配転命令に従う労働契約上の義務を負わないものというべきである。