東亜石油事件(配置転換・職種の限定ではない)

東亜石油事件(東京高裁昭和51年7月19日判決)
「会社の就業規則においては、業務上の都合により、職場、職務の変更を命ずることがある旨の規定があり、採用の際に、会社の諸規定を守る旨の誓約書を提出していた。」


[事案の概要]
Xは、昭和35年Yに入社し、川崎製油所製造部に勤務してきた者であるが、Yは、Xに対し、昭和39年10月1日付で本社への配転命令を出したところ、Xがこれに従わなかったので、昭和40年5月12日、Xを懲戒解雇した。


[判決の要旨]
Yの就業規則には、その第66条第1項に「業務の都合により従業員に対し任免を行い転勤、職場、職務の変更を命ずることがある」との規定があること、Xは、入社に際し、「会社の諸規定を守り、会社業務の都合により出張又は各地事業場に転勤する場合異議を述べない」旨の誓約書を、身元保証人2名とともに連署の上、会社に差し入れたことが認められる。したがって、Xは、右規定により転勤及び職務の変更(これらを以下「配転」という)を命ぜられたときは右命令が労使間の信義則に反する等特段の事情がない限り、これに従うべき労働契約上の義務がある。<LPガスの需給量が急激に増加したため、Yは、LPガスセールスエンジニヤを本社に設置することを決定し、>Xは、LPガスに関する豊富な専門的知識と経験とを有しており、また、住所は東京都内であったので、その年齢・学歴の点も含めて、前記2の選考基準に合致する最適任者であった。以上の認定事実によれば、Xに対する本件配転命令は、前記就業規則の規定にいう「業務の必要」により発せられたものということができる。Xは、同人を技術者として採用する旨の雇用条件であったから、専門技術を要しないLPガスセールスエンジニヤとして労務を提供する義務がなく、したがって本件配転命令に従う義務がない旨主張する。しかし、LPガスセールスエンジニヤが専門技術的知識経験を必要とすることは、前に認定したところであり、<入社後Xが従事した仕事の大部分は2ヶ月程度で操作に習熟しうるものであったこと、副次的に行った研究的な試験について成功に至らなかったこと等を認定した上で、>以上の認定によれば、Xは、大学を卒業した後適当な就職先がなく、A教授の実験助手としてその研究実験の補助をなし、一般卒業者と一緒に採用試験を受けてYに採用された者であり、その知識技術を見込まれて招へいされたものではなく、技術者として処遇することの約束もなかったと見られるのである。また、Yが、特殊な専門技術部門を有してその担当者としてXを当てていたと見るべき資料もなく、同人が、特殊で狭いがきわめて高度な知識経験を有していたと認めることもできない。したがって、Xの前記主張は理由がない。Yの就業規則によれば、転勤を命ぜられた従業員は、受命の日より1週間以内に出発し、速かに赴任すべきものとされ、懲戒解雇事由の一として会社の指令命令に従わず故意に職場の秩序をみだした者が挙げられていることが認められる。<中略>Xは、本件配転命令により、本社潤滑油部陸上課において勤務する労働契約上の義務があるのに、右命令に従わず故意に職場の秩序を乱したものと認められるから、Xには前記就業規則上の懲戒事由が存するものと言い得る。右認定事実によれば、Yは、Xに対し、本件配転命令に従うよう説得を尽くし、また、組合とも配転問題につき10回以上話合の機会を持ち、発令後7カ月余も経過したのであるが、Xが同命令に従わなかったため懲戒解雇に及んだものであり、右交渉の経過に本件配転の必要性及びXがこれを拒否した事情に関する前認定事実を総合するならば、右懲戒解雇が権利の濫用であると言い得ないことは明白である。