ヤマトセキュリティ事件(配置転換の制限・職種の限定)

ヤマトセキュリティ事件(大阪地裁平成9年6月10日決定)
「求人広告の内容、勤務形態、採用時の会社の言動等から秘書業務を含む事務系業務の社員として採用する旨の合意がなされているとした。」


[事案の概要]
Xは、英語及び仏語に堪能で、警備会社Yの社長室に配属された大学卒女子である。Yは、Xがその後に配属されたいくつかの事務系部署での勤務成績が不良であること及び事務系職種から警備業職種への配置転換を拒否したことを理由に解雇された。


[決定の要旨]
〈職種の限定について〉XがY会社に就職するきっかけとなった平成3年4月16日付けA新聞の求人広告欄には、「社長秘書募集」という表題の下に、採用条件として、「英語堪能な方を望みます(仏語もできる方は尚良)」「タイピングできる方」「出張可能な方」「普通自動車運転できる方」という文言が記載されており、Xに対して語学能力のみが要求されていたものではないことが認められる。また、右の求人内容からXにおいて自己が警備業務に配置されることを予想することは困難であり、Xも採用面接の際に将来警備職に就くこともあり得る旨の明確な説明を受けていない。さらに、Y会社の就業規程6条は、採用を内示された者が提出すべき書類として、警備業務に従事することを予定する者については警備業法所定の書類を指定している上、同規程47条以下は、就業時間、休憩時間について、総合職、一般社員と警備職員とを全く別異に扱っている。〈中略〉Y会社の女子職員5名に関する人事記録によれば、女子職員でも警備業務に就く場合があることが分かるが、これらの職員はすべて警備に関する教育を受けているほか、警備業法所定の誓約書を提出しているのであって〈中略〉、平成3年5月の採用時点から平成8年11月に解雇されるまでの約5年半にわたって正式な警備業務に関する教育がなされていないXとは、採用時の状況ないし採用後まもない時期の状況に大きな隔たりがある。右のような採用条件、採用後の勤務形態の違い、求人広告の内容と採用面接時におけるY会社側の言動、警備業務に携わっている他の女子職員に関する採用状況を総合勘案すれば、Xは社長秘書業務を含む事務系業務の社員として採用する旨の合意がなされたものというべきである。〈配置転換命令の有効性〉一般に、労働の種類、態様、勤務場所は、労働提供の具体的な内容をなすものであり、併せて労働者の生活にとって極めて重要な意義を有するのであるから、労働契約の内容をなすものというべきであり、労働の種類、態様、勤務場所の変更は、労働契約の内容を変更するものであって、当該労働契約によってあらかじめ合意された範囲を超える労働の種類、態様、勤務場所の変更は、労働者の個別的な同意がない場合においては、使用者の一方的命令によってはこれをなし得ないものと解すべきである(広島中央電報局長事件・広島地方裁判所昭和63年7月26日判決)。Y会社としては、Xを採用する際において、将来事務系業務以外に警備業務を担当することもあり得ること、その際は警備業務に必要な資格書類の提出を求め、警備訓練を実施することなどをXに告知し、その同意を得ておけば右就業規程10条〈「会社は、業務の都合や人材育成などの必要に応じて、社員の職場もしくは職務、職種の変更、転勤、派遣及びその他人事上の異動を命ずることがある。前項の命令を受けた社員は正当な理由なく、これを阻むことは出来ない」〉による異動を命じることができたものといえるが、既に争点に対する判断1項(職種の限定について)で検討したように、XとY会社の間には社長秘書業務を含む事務系業務の社員として採用する旨の合意がなされたものというべきである。したがって、Xについて右就業規程10条の適用はなく、警備業務への職種の変更については個別の同意が必要である。仮に、就業規程10条の適用があるとしても、雇用契約当初においてなされた合意の状況、Xは警備業務への配転命令がなされた当時47歳の全く警備業務の教育さえ受けたことのない女子であること、次項で述べるとおり、Xの5級職としての地位からの労働条件の切り下げがなされ得る状況が存したことの諸事情に照らせば、Xにおける警備職への配転命令拒否には正当な理由があったものというべきである。〈本件解雇については、Yは、(1)成績不良、(2)Xの作成した事業計画書の評価の低さ、(3)配転命令拒否の3つの理由を挙げたが、(3)については配転命令が無効なため理由がないとし、(1)及び(2)については、解雇という重大な処分にまで処することは著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないものであるとし、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきと判断した。〉