日通名古屋製鉄作業事件(労働契約に伴う権利義務・兼業禁止義務)

日通名古屋製鉄作業事件(名古屋地裁平成3年7月22日判決)
「労働者が就業時間外に適度な休養をとることは誠実な労務の提供のための基礎的条件であり、また、兼業の内容によっては使用者の経営秩序を害すこともありうるから、労働者の兼業を使用者の許可・承認にかからせることも一般的には許され、勤務時間が本業の就業時間と重複するおそれもあり、時に深夜にも及ぶ本件兼業は、会社への誠実な労務の提供に支障をきたす蓋然性はきわめて高いとして、労働者の懲戒解雇を有効とした。」


[事実の概要]
Yは、A会社名古屋製鐡所構内における製品および原材料の運搬ならびに各種荷役作業を業とする株式会社であり、Xは、昭和42年に大型特殊自動車運転手としてYに入社し、構内輸送の業務に従事してきた者である。Xが昭和54年ころからBタクシー会社に運転手として勤務していたことが判明したため、昭和60年3月29日、Yは、Xに対し、就業規則所定の兼業禁止規定に違反したことを理由として、解雇する旨の意思表示をした。


[判決の要旨]
Y会社の就業規則63条に「社命又は許可なく他に就職したとき」は懲戒解雇に処する旨の定めがあること<中略>は当事者間に争いがない。Xは、昭和54年ころからB会社のタクシー運転手として勤務し、当初の1年間は他人の乗務員証で乗務していたが、昭和55年春ころからは自らの乗務員証を掲げて乗務するようになった。その勤務は、Y会社の公休日の前後を利用して行われ、1か月に4、5回位の割合で乗務していた。その就労形態は、Y会社を4時に退社すると、その足でタクシー会社に赴き、午後5時から翌朝まで乗務し、午前8時半から同11時までの間に当日の売上を納入し、更に、公休が続くときは、次の日の朝方まで乗務し、納車した後はA社正門前に自家用自動車を停め、そこで仮眠してから当日の勤務に就くという体制をとっていた。<右事実がYに判明したのは、昭和60年2月である。>Xは、前記就業規則の定めは公序良俗に反し無効である旨主張する。たしかに、労働者は、勤務時間外においては、本来使用者の支配を離れ自由なはずであるが、勤務時間外の事柄であっても、それが勤務時間中の労務の提供に影響を及ぼすものである限りにおいて、一定限度の規制を受けることはやむをえないと考えられる。これをいわゆる兼業の禁止についてみるに、労働者が就業時間外において適度な休養をとることは誠実な労務の提供のための基礎的条件であり、また、兼業の内容によっては使用者の経営秩序を害することもありうるから、使用者として労働者の兼業につき関心を持つことは正当視されるべきであり、労働者の兼業を使用者の許可ないし承認にかからせることも一般的には許されると解される。したがって、前記就業規則の定めを当然に無効であるとするXの主張は、採用し難い。そこで、本件について具体的にみるに、Xの兼業がB会社との継続的な雇用契約によるものか、単なるアルバイト的なものであるのかは必ずしも判然としないが、その勤務時間は、場合によってはY会社の就業時間と重複するおそれもあり、時に深夜にも及ぶもので、たとえアルバイトであったとしても、余暇利用のそれとは異なり、Yへの誠実な労務の提供に支障を来す蓋然性は極めて高いといわなければならない。したがって、仮に前記就業規則の定めがいわゆるアルバイトを含めて一切の兼業を禁止するものとは解し得ないとしても、Xの本件兼業が前記就業規則の禁止する兼業に該当することは明らかであり、本件証拠中に現れたY会社の他の従業員にみられる兼業とは性質を異にするといわなければならない。Xはまた、YがXから仕事を奪い、かつ賃金を低劣な水準に押さえ込んできたのであるから、Xの兼業は緊急避難ないし正当防衛行為であると主張する。しかしながら、Xの右主張は、YがXに対して執った各処分ないし措置<自宅待機命令等>が不当労働行為であることを前提とするものであるところ、そのこと自体否定されるべきものであることは前記のとおりであり、XがY会社において受けた処遇の原因は主としてX自身にあるというべきであるから、Xの右主張は、採用しがたい。<中略>そうすると、その余の点について判断するまでもなく、Xの労働契約上の権利を有する地位の確認請求および右地位の存在を前提とする賃金請求は理由がない。