エープライ事件(労働契約継続中の競業避止義務)

エープライ事件(東京地裁平成15年4月25日判決)
「労働者が、自己又は競業会社の利益を図る目的で、職務上知りえた販売価格を競業会社に伝え、競業会社を顧客に紹介した等の行為は、雇用契約上の忠実義務に違反する債務不履行であるとともに不法行為でもあるとされた。」


[事実の概要]
X社は、工業用及び家庭用電気機械器具の販売及び設置工事を業とする株式会社であり、その商品には、インターチェンジの料金所ブース等に取り付けるエアーカーテン等がある。Yは、平成5年7月1日にX社に雇用され、平成6年末から平成11年7月ころまでX社九州支社の責任者であった者であるが、X社は、Yが業務上の必要がないのに他社へ自社製品である堅形エアーカーテン(2号機)を送付するよう指示し、かつ、受注予定であった売買の買主を同業他者に紹介する等してX社に損害を与えたとして、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた。


[判決の要旨]
<Yは、同人がA社へ2号機を送付するよう指示したのは、Yが2号機の取付方法を知らなかったためこれをA社に調査してもらうためであったと主張しているところ、>X社は平成11年3月末ころから本州において2号機の販売取付の実績が数件あったこと、2号機を開発したBはX会社を退社してはいなかったこと、A社は1号機の取付実績はあったが2号機の取付の経験はなかったこと、A社は、2号機の取付方法について教示してほしい旨のYの依頼を否定していること、A社の本店は、当時、後に堅形エアーカーテンの販売においてX会社と競争関係となるC社の本店所在地と同一であったことが認められる。これらの事実を総合すると、Yは、X社の業務上必要がないばかりか、X社と競争関係になるC社に2号機の構造を知られる可能性があるにもかかわらず、本件指示<2号機をA社に送付する指示>を行ったことが認められる。ア Yは、自己又はC社の利益を図る目的で、(1)<エアーカーテン。(2)から(4)も同じ>の売買をC社に受注させるよう、(1)の買主に対しては、競争相手がいないことを前提として決められたX社の通常の販売価格を最終的な販売価格であると告げた上、C社を紹介し、C社に対しては、(1)の売買の案件があることと、(1)の売買のX社の販売価格とそれにC社がとって代わる際の予定価格を知らせたことが認められる。イ Yは、D<C社社員>と共謀の上、(2)の売買をC社に受注させるため、(2)の売買の交渉申入れが九州支社にされた際、買主に対し、Dは九州支社の関係者であり、C社はX社の協力会社であるかのように装って、買主と交渉させ、(2)の売買の受注者名をC社とさせた上、九州支社が工事を行わないのは、九州支社の都合で工事を行えなくなったからである旨告げたことが認められる。ウ Yは、(3)(4)の売買をC社に受注させる目的で、競争相手がいることや受注には値引きが必要となること等を何ら上司に報告することなく、買主には、前記X社の一般的な販売価格を一方的に告げた上、C社に対しては、(3)(4)の売買の案件があることを知らせたことが認められる。そして、(1)(2)の売買について、Yが、Cに対し、X社の販売価格を告げていることからすれば、Yが、(3)(4)の売買についてX社の提示している販売価格を告げ、これより安価な条件を提示するよう進めたことも認められるというべきである。Yのアないしウの各行為は、使用者の利益のために活動する義務がある被用者が、自己又は競業会社の利益を図る目的で、職務上知りえた使用者が顧客に提示した販売価格を競業会社に伝えるとともに、競業会社を顧客に紹介したり、競業会社が使用者の協力会社であるかのように装って競業会社に発注させたり、上司に競業会社がより安い価格で顧客と契約する可能性があることを報告しなかった行為であるから、雇傭契約上の忠実義務に違反する行為であるとともに、X社の営業上の利益を侵害する違法な行為であるというべきである。<中略>以上から、X会社の請求は、本件指示による不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償請求として4万8800円、及び、(1)及び(2)の売買をC社に受注させるよう売主やC社に働きかけた行為による不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償請求として310万9600円<中略>を求める限度で理由がある。