プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(職務変更・降格)

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(神戸地裁平成15年3月12日決定)
「職務の水準に基準を設け、各バンドの職務内容・昇進の基準を明確化し、バンドごとに基本給の範囲を定めるジョブ・バンド制において、企業の組織再編のための降格的配転の効力を判断するためには、対象者が被る不利益が相当程度である場合には、対象者選択に一定の合理性が必要であるとした。」

[事案の概要]
生活用品等の輸出入、販売等を行うY社においては、マネージャー職にジョブ・バンド制を採用している。ジョブ・バンド制とは、職務の水準について明確なガイドラインを設け、各バンドに対して一つのレベルを与え、職務内容、昇進の基準を明確とし、個人のキャリア計画に資するものであり、Y社においてはバンドIからバンドVIまであり、ほとんどの部門で初心のマネージャーはバンドIに認定されている。また、基本給はバンドごとにその上限・下限が定められている。Xは昭和62年にY社との間で雇用契約を締結し、平成10年、人事制度の変更に伴って、シニア・マネージャー(バンドIII)に移行した。Xは平成13年4月当時、市場調査(CMK)を担当しており、担当職務のうち予算割合で約7割を「Sプロジェクト」に費やしていたが、平成13年4月、Xの所属部門長であるAはXに対し、Sプロジェクトが廃止されることを通告し、退職の意思の有無を確認したが、Xは退職しない旨回答した。翌月、Y社の役員Bらは、「スペシャル・アサインメント」として、XはAの命じた職務を行うこと、バンドはIIIからIとなること、給与は減額しないこと、その後のストックオプションの資格を失うこと、今後の昇級は期待できないことを伝えた。またAはXに対し、現時点において有意義な仕事を命じる予定はない等告げた。その後Y社側は8ヶ月間、数度にわたりXに対して他の部門への異動を打診したが、Xは承服しなかった。そこでY社は平成14年1月、他部門への異動とバンドIIに該当する職務を担当することを命じる文書をXに送付した(本件配転命令)。Xはこれらの措置に対し、団体交渉等を経て、平成14年2月22日付けの内容証明郵便で「現在の職位・職場における勤務を続ける」旨Y社に通知し、通勤を続けた(新たな職務での就労はしていない)。一方Y社は同月21日以降、Xの賃金を支払わなかった。


[決定の要旨]
Y社には、人事権の一内容として、その運営上必要がある場合には、Xにそれを拒む正当な理由がない限り、配転命令をする権利があると解される。しかし、他方、<労働契約書の条項>においても明らかなように、人事権に基づく配転命令権といっても、労働者の利益との関係で自ずと一定の限界があり、違法な目的に基づきされた配転命令は権利濫用であるから、無効と解すべきであり、他に、業務上の必要と労働者の職業上・生活上の不利益を総合考慮して、配転命令権が権利濫用となると解される場合も、それは、無効と解すべきである。<諸事情を総合考慮すると、>Y社のスペシャル・アサインメントの目的は、Xの退職を促すものと推認することができる。このように、スペシャル・アサインメントは、業務上の必要性が必ずしも高くないのに、Xに著しい不利益を与えるもので、Xの退職を促す違法な目的をもってなされたものであるから、Y社の配転命令権の濫用と解するほかはなく、無効である。したがって、Xは、本件配転命令当時<中略>シニア・マネージャーの地位にあり、バンドIIIであったと解すべきである。<バンドIIの職務を行う旨の配転命令について、>本件配転のような、企業の組織再編のための降格的配転の効力を判断するためには、対象者が被る不利益が相当程度である場合には、対象者選択が一定の合理性がある必要があると解すべきである。そして、その対象者の選定に当たっては、同じ職種、本件では、Y内のCMKのバンドIII該当者内において、その者を降格者として選択したことに何らかの合理性が見いだされる事由、例えば、その者の能力ないし成果が他の者と比較して劣る、或いは、他の該当者をその担当職務から外すことには、困難が伴うなど、が必要があると解すべきである。この点について、Y社は、業務上の必要性がある場合に、その部門の構成員ないしその地位を廃止する場合には、その部門の構成員ないしその地位の者についての降格的な人事は、人事権の裁量の範囲内であるとの見解を前提とするようであるが、そもそも企業体においては、配転による人事交流が前提とされており、前記のとおりY社の組織も配転を前提としていることからすると、その部門ないし地位を廃止することのみを理由に、そこに所属ないし在職する者を、本件のような相当な不利益を与える降格的な人事の対象者として選択することは合理性が乏しいと解すべきである。そして、本件配転に至る経緯で、Y側が検討した事情を総合すると、Xを、降格的な人事の対象者とした理由は、廃止されるべき地位に在職していた点以外には見いだせない。そうすると、本件配転命令は、一定の業務上の必要性があるが、Xに相当な不利益を与えるものであって、そうであるのに、対象者をXと選択した理由が合理的とまでは言えないから、Y社の人事命令権の濫用に該当し、無効と解すべきである。