日鐵商事(本訴)事件(転籍の有効性・転籍後の労働条件の説明)

日鐵商事(本訴)事件(東京地裁平成9年12月16日判決)
「転籍先の労働条件について、十分な説明を受けないまま合意をすると、転籍元との合意解約に要素の錯誤が認められることがあることを前提に判断している。ただし、同判決では否定された。」


[事実の概要]
XはYにおいて業務に従事していたが、XはYからAに出向を命ぜられ、平成3年2月1日からAに出向していたところ、XはYから、同年9月、Aに転籍するように説得された。XはYに対し、平成3年9月30日付で「一身上の都合のため」との理由による退職願を提出し、以後、Xに対しては、Aから、55歳当時の約7割の給与が支給された。


[判決の要旨]
Xは、本件退職願の提出によって、Yを有効に退職したと認められる。この点、Xは、平成3年9月中旬<Yの人事担当取締役である>Bと面会した際、Bから、Aに転籍した後も、Y在籍時と同じ約1,000万円の年収が保証されるとの説明があり、これを前提として退職願を提出したのであるから、右退職の申し出の意思表示は要素の錯誤に基づくものであると主張する。<Xは、Yから、平成3年9月初旬に、(1)給料は最初は80パーセントで最後は60パーセントだから、平均すると70パーセントくらいになること、(2)給料は700万円くらいになること、(3)55歳で転籍になることを説明されていること等を認定した上で、>以上の点に加え、本件退職願の提出は、平成3年4月1日の就業規則の改正以来四半期末期ごとに、出向中の従業員について55歳到達後その全員に対し転籍を実行し、その際、給料については、55歳時点での7割程度とする旨の、前記のとおりのYの人事制度の一環として行われたものであり、また、本件全証拠に照らしても、Yにおいて、Xのみに対し、その例外を認める必要性・許容性を認めがたいことなど、前記認定の諸事情等をも併せ考慮すれば、X主張を認めるに足りる証拠のない本件においては、結局のところ、Y在職時の年収をYが保障した旨のX主張の事実はこれを認めることができない。してみれば、Xに仮に錯誤があったとしても、その動機が表示されたとはいえない本件においては、要素の錯誤があったとは認めることができない。