炭研精工事件(懲戒権の濫用)

炭研精工事件(最高裁平成3年9月19日第一小法廷判決)
「経歴の詐称を理由とする懲戒解雇につき、他の情状をあわせ考慮し、懲戒解雇事由としては相当であり、使用者の懲戒権の濫用には当たらないとされた。」


[事実の概要]
機械部品製造を営むY社に旋盤工として雇用されていたXは、採用されるに当たり、大学を中退していたこと及びいわゆる成田闘争において2度逮捕、拘留、起訴され、いずれも後半継続中であったことを秘匿していた。XはY社に採用されてから、デモに参加して逮捕、拘留されて10日間欠勤した。Y社はXの逮捕、拘留を知り調査したところ、Xの経歴を知るに至った。その後Xが上記2件の刑事事件について懲役刑(いずれも執行猶予付き)に処され、Y社は(1)10日間の欠勤は「正当な理由なく7日間連続して無断欠勤したとき」との懲戒解雇理由に、(2)大学中退の事実や、逮捕等の事実を秘匿していたことが「経歴をいつわり・・・雇い入れられたとき」の懲戒解雇事由に、(3)Xが懲役刑に処せられたことが「禁固以上の刑に処せられたとき」との懲戒解雇事由に、(4)会社構内で無許可でビラを配布した行為が「職務上の指示に不当に反抗し職場の秩序をみだしまたはみだそうとしたとき」との懲戒解雇事由にそれぞれ該当するとの理由から、Xを懲戒解雇とした。Xは懲戒解雇は無効であると主張、地位確認等を求めて出訴した。1審は、上記(1)及び(4)については懲戒解雇事由該当制を否定したが、(2)及び(3)の懲戒解雇該当制を肯定し、これらのみによっても懲戒解雇は有効となるとした。2審は、(2)のうち、刑事事件については公判中であることを申告しなかったことは懲戒解雇自由には該当しないとしたが、他の点は1審同様の判断により、懲戒解雇を有効とした。これに対してXが上告したものである。


[判決の要旨]
原審の適法に確定した事実関係の下において、本件解雇を有効とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審は、Xが2回にわたり懲役刑を受けたこと及び雇い入れられる際に学歴を偽ったことがY社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとした上、Xのその他の言動を情状として考慮し、本件解雇が懲戒権の濫用に当たらない旨を判示しているのであって、Xが「既存の社会秩序を否定する考え」等を有するということをもって本件解雇を正当化しているものではないから、憲法19条違反をいう所論は、その前提条件を欠く。