アメリカンスクール事件(降格)

アメリカンスクール事件(東京地裁平成13年8月31日判決)
「降格処分について、就業規則に定めがない場合であっても、人事権の行使として、降格処分を行う(地位から解く)ことも許されるとした。」


[事案の概要]
Xは、平成3年7月に、学校法人Yに採用されてから、Yの管理部長として勤務していた。
Xは、Yが校内の清掃を依頼していた取引業者であるAの代表取締役から平成4年10月頃及び同年12月頃に各ビール券3万円分、平成5年7月頃及び12月頃に各商品券5万円分、平成6年7月頃に商品券6万円分、同年12月頃、平成7年7月頃、同年12月頃及び平成8年7月頃に各商品券5万円分、同年10月頃に商品券20万円分、同年12月頃及び平成9年7月頃に各商品券5万円分を受け取った。さらに、Xは、同じくYが清掃を依頼していたBから、平成8年12月頃、平成9年8月頃及び同年12月頃に各ビール券約2万円分を受け取っていた。これを知ったYは、Xに対し、懲戒処分として戒告した上で、人事上の措置として、アシスタント・マネージャーに降格した。その際、アシスタント・マネージャーへの降格処分に伴って、減給を検討した結果、アシスタント・マネージャーへの職位は賃金規定の従業員格付表の第1表事務系の6等級に該当するが、Xの年齢等を考慮して7等級とし、号俸は25号俸のまま留めた。Xは、Yがした降格処分及び減給処分は無効であるとして、施設管理部長たる地位の確認と、差額賃金、差額賞与及びこれらに対する民法所定の遅延損害金の支払を求めた。

[判決の要旨]
懲戒処分は企業秩序維持のための労働者に対する特別な制裁であることから、それを行うについて契約関係における特別の根拠が必要とするのが相当であり、就業規則上の定めが必要と解される(労働基準法89条1項9号参照)。したがって、使用者が、懲戒処分として降格処分を行うには、就業規則上懲戒処分として降格処分が規定されていなくてはならない。Yにおいては、〈中略〉就業規則上懲戒処分として降格の規定はないから、Yは、懲戒処分として降格処分を行うことはできない。他方、法人は、特定の目的及び業務を行うために設立されるものであるから、この目的ないし業務遂行のため、当該法人と雇用関係にある労働者に対し、その者の能力、資質に応じて、組織の中で労働者を位置付け役割を定める人事権があると解される。そして、被用者の能力資質が、現在の地位にふさわしくないと判断される場合には、業務遂行のため、労働者をその地位から解く(降格する)ことも人事権の行使として当然認められる。したがって、降格処分についての就業規則に定めがないYにおいても、人事権の行使として降格処分を行うことは許される。Yの給与・退職金規定の第9条に各従業員の給料は、地位、能力を考慮して決められる旨の定めがあることからすれば、被用者の降格処分に応じて減給することも許される。ただし、この人事権の行使は、労働契約の中で行使されるものであるから、相当な理由がないのに、労働者に大きな不利益を課す場合には、人事権の裁量逸脱、濫用として無効となるとするのが相当である。〈事案の概要に記載した事実を認定した上で、〉そうすると、XはYの出入り業者から仕事発注の見返りに長期に渡り多額の謝礼を受け取っていたということになり、この行為は、就業規則に違反する行為であって、施設管理部長という自らの地位を利用して私利を図り、リベート分の代金上乗せ分の損害をYに与えるのみならず、Yの業務の適正な管理遂行を害する行為であるから、Xの管理職としての不適格性は明らかで、YがXの施設管理部長の職を解くことに十分な理由がある。〈Xが、商品券を受け取ったことにつき、就業規則に違反しているとの認識がなく、就業規則の規定の趣旨を理解していないこと、部下Cがリベートを受け取っていることを知りつつ放置したか、看過した監督不十分が存在すること、Cがその部下に対し、気ままな指導をし、いじめを行っていたことを知りつつ放置したか、看過した監督不十分があることを認めた上で、〉以上の各事実は、清掃等の業務を委託する業者を適正に選択し監督する能力資質、部下に対する指導監督する能力及び適正な情報管理を行う能力等Y施設管理部長として要求される能力資質について、いずれも重大な疑問を抱かせる事実であるから、YがXを施設管理部長の職には不適格としその職位を解くことに十分な理由がある。そして、本件降格処分は、XをYの従業員格付表の第1表事務系における8等級のマネージャーにあたる施設管理部長からその2段階下のアシスタントマネージャーにあたる建物及びグラウンド管理アシスタントマネージャーへ降格するものであるところ、この降格はイ及びエで認定した事実〈事実の概要及び前段落参照〉に照らして相当な程度を超えないというべきである。また、本件減給処分は、〈中略〉アシスタントマネージャーは本来的には6等級に該当するところ、Xの年齢等諸事情を考慮して7等級とし、号俸についても25級に留めたものであり、〈中略〉差額賃金等が生じるとしても、本件降格処分に伴うものとして相当な範囲を超えるものではない。そうすると、本件降格処分及び本件減給処分は、理由があり、かつ、処分の程度としても相当であり、Yの人事権の行使として裁量を逸脱・濫用するものではなく、有効と認められる。