よみうり事件(配置転換命令)

よみうり事件(名古屋高裁平成7年8月23日判決)
「配置転換命令権の性質は一種の形成的な法律行為であるとした。」


[事案の概要]
Xは、昭和52年5月にY会社に入社し、編集部整理課(後に編集局整理部に組織変更がなされる。)に配属され、以後、同課(部)員として勤務してきた。Yは、昭和58年2月に、Xに対し、編集局整理部から同局報道部報道課への配置転換を命令をした。
Xは、Yに対し、(1)Xの職種は整理に限定されていた、(2)本件配置転換は本人の同意をもって実施するとの団体交渉確認事項(労働協約の内容の一部。以下、本件確認事項とする。)に違反している、(3)本件配転命令は不当労働行為に当たるとして、本件配置転換命令の無効確認を求める訴訟を提起した。

[判決の要旨]
〈配転命令の法的性質〉配置転換ないし配転とは、同一企業内における労働者の職種、職務内容、勤務場所のいずれか又は全てを、長期にわたって変更するものである(以下「配転」という。)。労働契約においては、賃金、労働時間のみならず、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項もまた労働条件であり(労働基準法15条1項、同法施行規則5条1項参照)、労働契約の要素となるものであることから、配転により労働者の職種、職務内容、勤務場所のいずれかが変更されることとなれば、その変更は労働条件の変更、即ち労働契約の内容の変更となるものである。したがって、使用者が配転命令権を有する場合において、労働者に対してこれを行使するということは、当該労働者の労働条件・労働契約内容を一方的に変更するということであり、その性質は、一種の形成的な法律行為である。〈(1)について〉〈XはYに入社する以前に他社で整理の仕事をしていた経験があること、Y社においては、Xが応募した採用面接を整理と報道で別々に行っていたこと、Y社は、Xを採用するに当たり、当初の担当職務を辞令上で「編集部整理課」と指定したが、職種の特定を明示した事実はなく、Xもその事実についてY社に確認したことはなかったこと、Xは、Y社において、5年9ヶ月間整理課(部)員として勤務したことを認定した上で、〉XはY社に採用されるに当たり、編集部整理課を当初の勤務場所として指定されたが、職種を「整理」に特定して採用することまでの明示の意思表示はなかったというのであるから、それだけでは、Y社が当面整理を担当できる人材を求めていたことを認めることはできても、それ以上に、XとY社の間に、Xが在職中はY社の整理課員としてのみ労務提供する旨特約したとまでは認めることができない。〈(2)について〉〈本件確認事項の文言が、「配置転換は原則として一週間前に組合に通告、本人の同意をもって実施する。本人が不同意の場合、その不同意の理由を社が認めた場合は、同意しなかったことを理由として不利益扱いはしない。」と確定していることを認定した上で、その趣旨について、〉本人の不同意の理由に合理性がなく、会社がこれを是認し得ないときは、会社は不同意のまま発令し得る権限を留保するとともに、本人の不同意の理由に合理性がなく、徒に配転を拒否したために会社業務に支障を与えた者については、懲戒処分等の不利益扱いをすることがあり得ることも前提としているものと解するのが相当である。〈Y社が、Xに本件配転の内示をした際、Xは、整理は天職であること及び本件配転命令は不当労働行為であることを理由として、これに対し同意しなかったこと、Y社は、本件配転につき、本件配転期日の一週間前に組合に通告したが、配転日前の団体交渉には応じなかったこと、Y社は、その後も説得を続けたが、Xは翻意しなかったこと、Y社は、Xの配転拒否には正当な理由がないとの見解のもとに本件配転命令を発令したことを認定した上で、〉本件配転は、本社内の異動であって、Xの通勤時間に影響を与えるようなものではなく、また、仕事の内容の変更を伴う異動ではあるが、異動後における労働条件が以前より加重されるといった、Xに著しい不利益を与えるようなものでもないこと(深夜勤務の時間はかえって減少する。)が認められるのに対し、Xの配転拒否理由の一つである「整理は天職である」との主張は、Xの主観的な職業観の表白とは言えても、客観的に見て、配転拒否を合理化できるような理由とは言えず〈中略〉、また、もう一つの配転拒否の理由である不当労働行為の主張は、これを認めるに足りないことは後記説示のとおりである。そうすると、Xの右各理由による配転の拒否は、合理的理由に欠けるものといわなければならない。〈(3)について〉〈Xにつき配転を行う人事上の必要があることを認めた上で、本件配転命令は本社内の異動であり、Xに著しい不利益を与えるとかXの労働条件を著しく不利益に変更するとの事情も認められないことを考慮し、本件配転命令がXに対する不利益処分であるとか、組合の弱体化やXの過去の組合活動に対する報復ないし見せしめであることを認めるのは困難とした。〉〈結論〉よって、その余の点につき判断するまでもなく、本件配転命令は有効である。