センエイ事件(使用者と親会社・元請負人)

センエイ事件(佐賀地裁武雄支部平成9年3月28日決定)
「黙示の労働契約が成立するためには、社外労働者と受入企業の使用従属関係を前提にして、実質的にみて、社外労働者に賃金を支払う者が受入企業であり、かつ、当該労働者の労務提供の相手方が受入企業であると評価できることが必要であるとした上で、派遣先と派遣労働者の間で黙示の労働契約が成立したとした。」


[事案の概要]
1 Y社は、昭和63年3月、伊万里工場の操業を開始し、商品の保管、輸入合板の選別、カット加工を行っており、平成5年4月、コンクリートパネル塗装工程のラインを新設するに伴い、その業務をA(B工務店の代表取締役)が採用した従業員に行わせることとなり、その従業員2名をYの岸和田工場において研修を受けさせて、同月から伊万里第一工場の業務を行うこととなった。2 Aは、平成5年6月、C商事を設立してその代表取締役となったが、その本店所在地には、株式会社B工務店の看板や事務所が存在するのみであった。伊万里第二工場の積層合板及び床板の生産業務についても、C商事が採用した従業員がその業務を行うこととなり、Yは、C商事に対し、毎月末に前月分の出来高に応じて、消費税相当分3パーセントを上乗せして、その対価を支払うこととされていたが、右出来高は、特段の事情のない限り、C商事の従業員が従事した時間に応じて一定量の仕事が完成したものとみなして右金額を算定していた。3 C商事は、その名において、伊万里公共職業安定所に労働者募集を頼し、X1らのほとんどは、同職業安定所の紹介に応じて、あるいは友人の紹介で、C商事の本店所在地にある株式会社B工務店の事務所でAの面接を受け、履歴書のコピーを取り、Yの伊万里支店に行き、その内容等の説明を受けたが、その際、Yの伊万里工場長等から伊万里工場における仕事の概要及び仕事に従事する場合の安全管理、健康衛生管理等について説明を受け、履歴書原本をYに提出するなどして採用された。X1及びX2は、同職業安定所の紹介に応じて、直接、Yの伊万里支店に行き、採用された。4 X1らは、採用後、YからYのマークの入った帽子及びYの社名の入った作業服の支給を受けて各作業に従事しており、その作業に必要な用具、機材、材料等はC商事が提供するものではなかった。出勤時間は、伊万里第二工場のすべての労働者について同じであり、工場内に1台しかないYのタイムレコーダーにより記録されていた。X1らの欠勤、早退、時間外労働、配転等の管理はYが直接行っていた。さらに、就業規則については、Yのそれが伊万里第二工場の娯楽室内に掲示されていたが、C商事のそれは、伊万里工場内には掲示されていなかった。伊万里第一工場では、X1らは、C商事の従業員の指示で作業を行っており、伊万里第二工場では、C商事の従業員は、D会社から出向している従業員の指示を受けて作業に従事していた。5 C会社の解散に伴って解雇通知を受けたX1らは、Yに対して、Yの従業員たる地位にあることの確認を請求した。


[決定の要旨]
一般に、労働契約は、使用者が労働者に賃金を支払い、労働者が使用者に労務を提供することを基本的要素とするのであるから、黙示の労働契約が成立するためには、社外労働者が受入企業の事業場において同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事するという使用従属関係を前提にして、実質的にみて、当該労働者に賃金を支払う者が受入企業であり、かつ、当該労働者の労務提供の相手方が受入企業であると評価することができることが必要であると考えられる。そこで、前記一の各事実〈事案の概要1参照〉を前提に、このような意味でのX1らとYとの間の労働契約が成立していたか否かを判断するに、前記一の(三)、(四)の事実〈事案の概要3、4参照〉によれば、X1らがYの事業場である伊万里工場においてYから作業上の指揮命令を受けて労務に従事するという使用従属関係が存在していたというべきであるところ、X1らを含むC商事の従業員の賃金に関しては、それぞれ定められた基本給に各種手当を加え、社会保険料等を控除して算出されているところ、前記一の(二)〈事案の概要2参照〉に認定のとおり、Yは、C商事に対し、毎月末に前月分の出来高に応じて、消費税相当分3パーセントを上乗せして、その請負代金を支払うこととされていたが、右出来高は、特段の事情のない限り、Cの従業員が従事した時間に応じて一定量の仕事が完成したものとみなして右金額を算定しており、現在までに右特段の事情があるとして右算定方法以外の方法が用いられたことはなかったというのであって、その算定方法自体及び具体額(実績)を明確に示す資料はないものの、その請負代金は、基本的に、作業に従事した労働者の人数と労働時間とで算出されるX1らを含むC商事の従業員の受ける賃金の総額と直接関連するものであることを推認することができる上、その額は、実際上Yによって決定されていたと評価することができ、また、X1らの労務提供の相手方に関しては、前記一の(四)〈事案の概要4参照〉に認定のとおり、Xらに対する作業上の指揮命令及び出退勤の管理等は、実質上、Yが行っていたということができる上、X1らの配置や職場規律の適用等の労働条件の決定に関しても、C商事がこれらに関する権限を保持していたという明確な資料は見当たらず、むしろ、これをYが行っていたというべき事例があることを裏付ける資料も存在する。これらの事情に加えて、前記一に認定のとおり、C商事(当初は、A個人)は、株式会社B工務店と別組織であって、伊万里工場におけるX1らの作業について他に実績はなく、また、他企業との間の業務請負契約ないし他企業への労働者派遣の実績もなく、むしろ、Yのみとの関係でC商事が設立された経緯があること、X1らとC商事との間の本件業務請負契約について契約書等の書類は何ら作成されていないこと、タイムレコーダーの同一性を含め、出退勤時間や休暇の管理及び現実の作業についても、その大部分がYの従業員及び株式会社Dの従業員と混在ないし共同作業によって行われており、タイムカードのゴム印部分を除いて、作業服等からX1らを他の従業員と外形的に区分することはできず、職場規律及び福利厚生面でも、基本的には、他の従業員と区別されておらず、その作業に必要な材料、資材等もC商事が提供するものではなかったこと、さらには、X1らによる組合結成及び団体交渉並びにC商事の解散に至る経緯等の諸事情を併せ考えると、むしろ、少なくとも当初から第二工場で働いていたX1らとの間では、Yとしては、当初から、C商事をして供給又は派遣させた労働者を使用してその労務の提供を受け、これに対し、C商事を通じて賃金を支払う意思を有し、X1らとしても、Yの指揮命令の下これに対して労務を提供し、その対価として賃金を受け取る意思があり、したがって、実質的にみて、当該X1らに賃金を支払う者がYであり、かつ、X1らの労務提供の相手方がYであると評価することができるから(なお、X3についても、当初の職種及び配転の経緯からして同様である。)、両者間には、各X1らのY社工場における就労開始の時点で、黙示の労働契約が成立したものと、一応、認めることができるというべきであ〈る。〉