大阪フィルハーモニー交響楽団事件(解雇事由)

大阪フィルハーモニー交響楽団事件(大阪地裁平成元年6月29日判決)
「会社と労働組合との間に、組合員の解雇に関して労使の協議等を規定する協定があるにもかかわらず、協議が整わないままなされた解雇について、解雇事由が解雇に相当する強度の背信性を持つ等の特段の事情も認められないことから、違法、無効であるとした。」


[事案の概要]
Xは、Y交響楽団の楽団員であるが、兄とともに各種催し物の企画等を行うA社を設立し、同社の音楽関係の各種催し物の立案、企画等について中心的に活動していたが、Yは、A社がYの演奏会に対抗してコンサートを企画したことなどの競業行為を理由に、Xを解雇した。なお、Yの就業規定第II項には「楽団員の解雇は次のとおりとする。業務に堪えられない者、労働能率が著しく劣悪な者、精神又は身体の障害により業務に堪えられない者は、楽団は組合と協議して決める。」との規定があり、また、Yと労働組合との間の協定第V項は、「組合員の解雇について本人及び組合に異議のあるときは労使協議し、協議が整わないときは解雇しない」と定めていた。


[判決の要旨]
Xは、就業規定第II項の楽団員の解雇事由は限定的列挙であると主張する。なるほど、就業規定には右条項以外に楽団員の解雇に関する規定はない。しかしながら、同条項の文言に照らし、X主張のように解すべき必然性はないのみならず、X主張のように解するとすれば、同条項で列挙され、又はこれに準ずる事由以外の事由による解雇はおよそできないことになり、例えば非行によりYにいかなる損害を与えた楽団員ですらYは解雇できず、同人が自ら退職しない限り同人との雇用契約の継続を余儀なくされるなどの不都合な結果を招来することになるから、Xの右主張は採用できず、同条項列挙の解雇事由は例示的なものと解するのが相当である。Yは、協定第V項は、就業規定第II項を受けて規定されたもので、楽団員の義務違反ないしは背信行為を理由とする解雇には適用されない旨主張する。しかしながら、右条項は文言上協議の対象となる解雇を何ら限定していないのみならず、協定は〈中略〉Yの行う人事に組合が参加することを広く認めているのであるから、同条項は、Yの楽団員に対する恣意的な不当解雇を防止することを目的として、あらゆる場合の解雇について適用されると解するのが相当である。協定第V項にいう「協議」とは、前記同条項の目的に照らし、特段の事情がない限り解雇の意思表示の事前になされることが必要であり、しかも、単に労使が当該解雇につき話合いの場を持っただけでは足りず、解雇の是非当否について双方がそれぞれの立場から、議論を尽くすことをいうものと解され、同条項にいう「協議が整った」とは、労使が右議論を尽くしたうえで双方が解雇相当との結論に到達した場合をいうと解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記認定事実を総合すれば、Yと組合の本件解雇についての協議は、第一解雇後初めてなされ、しかも右協議は六回を数えたものの、Yは終始一貫してXの解雇に固執し、組合の行うXの復職要求に対し一顧だに与えなかったため、組合は右要求の実現が不可能であることを知り、ついにYとの交渉を断念し、これを終息したのであるから、右協議が同条項にいう協議に該当すると認めることは困難であり、また、組合が右経緯でYとの交渉を終息したことをもって、組合が本件解雇に同意したものと解する余地があるとしても、右同意が同条項の「協議が整った」場合に該当しないこともいうまでもない。したがって、本件解雇手続は同条項に違背するものといわねばならない。本件解雇は、協定第V項に規定する組合との協議が整わずなされたものであるが、本件解雇事由が解雇に相当する強度の背信性をもち、かつ、協議が整わなかったことにつき専ら組合に非がある等の特段の事情が認められるときは、なお本件解雇は有効であると解するのが相当である。〈中略〉以上の認定説示を総合すれば、Xに本件解雇を相当とする重大な背信行為があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。右認定説示によれば、本件解雇は、その手続において協定第V項に違背してなされた違法なものであり、しかも、前記特段の事情も認められないから、無効であるといわねばならない。