女子学院事件(解雇・不法行為)

女子学院事件(東京地裁昭和54年3月30日判決)
「本件解雇予告は権利の濫用として違法であり、会社はこのような理由で解雇予告をしてはならないのにこれをしたことにつき過失があり、本件解雇予告は不法行為を構成するとした。」


[事案の概要]
Xは、昭和38年、女子の教育を目的とする学校を経営するYとの間で、Yの職員として勤務する旨の雇用契約を締結し、それ以来Yの会計事務に従事してきたが、Yは、Xに対し、昭和50年4月28日、上司の指示や助言を受け付けないこと、同僚の事務職員や教師とも折り合いが悪いことが就業規則所定の解雇事由に当たるとして、解雇予告をした。しかし、XがYに迷惑をかけたことを認めて詫びるとともに今後その欠点を改めていく決意であるとの趣旨の書面を提出したことから、同年7月9日、Yは当該解雇予告を撤回した。


[判決の要旨]
本件解雇予告は、Xが就業規則第3条、第5条第4号、第24条第1号及び第3号に該当することを理由とするものであるところ、関連規定の内容は、次のとおりである。(職務の遂行)第3条 職員及び用務員は、この規程を守り院長の指示に従って、誠実にその職務を遂行しなければならない。第5条 職員及び用務員は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。1ないし3(略)4 学院の秩序又は職場規律を乱すこと(解雇事由)第24条 職員及び用務員が、次の各号の一に該当するときは、解雇することができる。1 職員又は用務員としての能力を著しく欠くとき2(略)3 第31条に規定する免職の懲戒を受ける事由があるとき(懲戒)第31条 この規程に違反した職員及び用務員に対しては、理事会は免職の懲戒を行うことがある。しかるところ、前記で認定したように、本件解雇予告の理由とされた事実は、いずれも就業規則の右各規定に該当しないか、又はXに極めて軽微な責任しか負わせることができない場合であり、他にXを解雇すべき相当の理由も見当らないから、本件解雇予告は権利の濫用として違法であり、Yにはこのような理由で解雇予告をしてはならないのにこれを発したことにつき過失があるものということができ、これによりXは精神的損害を受けたことが認められる。A院長が昭和50年5月6日教員により教育上の諸問題を討議する場である教育会議の席上本件解雇予告通知書記載の理由により原告に対し解雇予告を発したことを説明し、さらにB事務長が同月7日定例の事務打合会(20人位の事務職員の出席する会議であることが認められる。)の席上右通知書を読み上げてこれを発表したことは当事者間に争いがなく、右の説明ないし発表行為がYの意を受けて行われたことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。右事実に、前記のとおり本件解雇予告の理由とされた事実がいずれも就業規則の前記各規定に該当しないか、又はXに極めて軽微な責任しか負わせることができず、本件解雇予告が権利の濫用として違法であることを併せ考えると、右説明ないし発表は、事実はそうでないのに、Xが誠実にその職務を遂行せず、学院の秩序又は職場規律を乱し、職員としての能力を著しく欠き、懲戒免職を受けるべき事由があったとの印象を多数のYの職員に与えたものということができ、Yは、過失により違法にXの名誉を傷つけたものというべきである。Xが昭和50年4月30日〈XがYに迷惑をかけたことを認めて詫びるとともに今後その欠点を改めていく決意であるとの趣旨の〉書面を提出したのに対し、Yが同年7月9日付書面で、(1)当時の管理体制に種々不備な点があったことを認める、(2)Xの反省と今後への決意を評価する、(3)解雇予告通知は妥当性を欠く点があったことを認める、特にその内容にXの職員としての能力についてXの名誉を傷つけかねない誤解を招いたことは遺憾であったとして本件解雇予告を撤回したこと、本件訴訟の提起は、その後同年10月7日付の配置転換によりXY間に争いが再燃したことが契機になっていることが認められる。したがって、前記で判示したXの精神的損害は、一旦かなりの程度填補されたと解すべきものであり、前記で認定した事実その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し、Yのなすべき損害賠償の額は20万円をもって相当と認める。