東京サレジオ学園事件(個別の合意と就業規則の関係)

東京サレジオ学園事件(東京高裁平成15年9月24日判決)
「就業規則において、業務の都合により勤務場所、職務、職位の変更を命じることがある旨定められていたが、労使間において、職種あるいは勤務場所を限定する合意が成立し、これが雇用契約の内容となっている場合には、労働者の同意のない限り、その範囲を超えて配転を行うことは許されないとした。」


[事案の概要]
Y児童養護施設は、18年間児童指導員として勤務してきたXに対して、調理員に配置転換する旨命令したところ、Xは、自らの雇用契約は、児童指導員に職種を限定したものだとし、また、仮にそうでなくても、本件配転命令は業務上の必要性を欠き、権利の濫用であるとして無効だと主張し、その無効確認を求めた。


[判決の要旨]
〈職種限定の合意について〉一般に、労使間において、職種あるいは勤務場所を限定する合意が成立し、これが雇用契約の内容となっている場合には、労働者の同意のない限り、その範囲を超えて配転を行うことは許されないと解すべきところ、Xは本件雇用契約において、Xの職種は児童相談員に限定されていたと主張するが、以下のとおり上記主張を採用することはできない。Xは本件雇用契約締結当時、児童相談員の資格も職歴も有していなかったのであるから、Xが職種を児童指導員に限定して雇用されたと認めることはできない(なお、Xがその資格を取得することを前提に、職種限定の雇用契約が結ばれたと認めることのできる証拠もない。)。その後、Xは昭和56年4月に児童指導員の資格を取得しているが、その際、Xの職種を児童指導員に限定する合意が成立したことを認めることのできる証拠はなく、そのような事実だけで、XとYとの間で職種を児童指導員に限定するという新たな合意が成立したと評価することもできない。〈児童養護施設における児童指導員には、ある程度の専門的知識と技術を必要とすることは否定できないが、その専門性の程度は、医師や看護師等のような高度の専門性を有する職種であると認めることはできないとした上で、〉Xは、採用されて以来、長期間一貫して児童指導員として勤務しているが、児童指導員の専門性が上記の程度にとどまるものであることにかんがみれば、長期間同一職種勤務の事実からXを他の職種につかせることを排除する合意が成立していると評価することはできない。〈配置転換命令の効力について〉一般に、雇用契約は、労働者がその労働力の利用を使用者に対して包括的に委ねるという内容を有しているのであるから、使用者は、こうした労働力についての包括的な処分権に基づき労働者に対して、職種及び勤務場所を特定して配転を命ずることができると解すべきである。そして、Yの就業規則には、いわゆる配転条項の定めがあり、上記判示のとおり、本件雇用契約においてXの職種を限定する合意は認められない以上、Yは、Xの個別的合意なしに業務上の必要性に応じ配転を命ずることができるものというべきである。もっとも、配置転換は、労働者に多かれ少なかれ何らかの影響を及ぼすものであるから、当該配転命令が不当な動機・目的をもってなされたとか、労働者に対し、通常甘受すべき程度を超える著しい不利益を負わせるものであるなど、特段の事情がある場合には、当該配転命令は権利の濫用となり効力を有しないと解するのが相当である。〈業務上の必要性について〉〈Xの児童への指導方法が、威圧的で感情に流れやすく、児童への考え方が硬直化していて柔軟性に欠けること、Xの指導方法が、規律を重んじ、力による支配を重視する傾向にあることは否定できないとし、また、このようなXの指導方針が、Yの指導方針である「受容と寛容」と乖離していることも否定できないとし〉そうすると、YがXの児童に対する指導方法が、本件学園の指導方針に沿わないとの判断のもとにした本件配転命令は、Yにとってその必要性を肯定できるものであり、Yが今後その指導方針に則り本件学園の運営を円滑に行っていくためのやむを得ない措置というべきである。〈Xに著しい不利益を負わせるかについて〉Xは、本件学園に採用されて以来、長年にわたって、児童指導員一筋で勤務してきたことは上記認定のとおりであって、本件配転命令により慣れ親しんだ職務を離れ、初めて経験する職務に従事することとなるので、その精神的打撃等の大きいことは容易に推認できるところである。しかし、配転は職務の変更を必然的に伴うものであって、職務変更に伴う精神的不利益は労働者において通常受認すべき程度のものであるというべきである上、Xが配転を命ぜられた調理員は従来と同一の職場での勤務であり、かつ、配転後もXには従前どおりの給与が支払われ、経済的損失が生じないことを考慮すれば、本件配転命令によってXが通常甘受すべき程度を超える著しい不利益を被ると認めることはできない。以上の次第であるから、Xの請求は、理由がないから棄却すべきであ〈る。〉