江崎グリコ事件(労基法の労働者以外の者)

江崎グリコ事件(仙台地裁平成6年9月30日決定)
「運送委託契約について、期間の満了ごとに更新を重ねて、あたかも期間の定めのない継続的契約と実質的に異ならない状態で存続していたとした上で、解約の意思表示の効力を判断するに当たって、期間の定めのない継続的契約の解約の法理を類推した。」


[事案の概要]
X社は貨物運送を主たる業務とする有限会社であり、Y社は菓子、食料品の製造及び売買を業とする株式会社である。X社はY社製品の運送を多く請け負っており、X社の関連会社である訴外A社及びB社を通じ、全運送の60パーセント以上がY社製品の運送であった。X社とY社は少なくとも27年間にわたり運送委託契約を締結しており、その間、昭和53年4月、同56年4月、平成元年6月に「契約の有効期間は1年間とする。ただし、期間満了1か月前までに当事者のいずれからも別段の意思表示がない場合は、さらに1年間有効とし、じ後もこの例による」旨の定めがある契約書を交わしていたが、X社及びY社は前記3回の契約書の作成時以外、特に更新手続をすることもなく、運送委託契約を存続させていた。ところがY社は、平成5年12月20日、X社に対し、上記運送委託契約のうち、冷菓製品の生産工場から全国各地の物流倉庫への長距離運送(広域運送)の委託を、平成6年3月31日をもって終了させる旨の書面を持参して交付した。X社は、取引関係の実態に照らせば、継続的契約が期間満了により終了するためには、契約を終了させてもやむを得ない事情が必要であり、本件ではその事情が存しないから、Y社との間に冷菓製品等の運送委託契約が存続しているとして、契約上の地位の確認及び委託運送取引から生ずる利益の仮払いを求め、予備的に、本件契約は期間の定めのない契約に転化したもので、その解約には相当程度の予告期間が必要なところ、本件では予告期間は1年間が相当であり、その間は本件契約は存続しているとして、予告期間の満了までX社が契約上の権利を有する地位の確認とX社の固定経費の仮払いを求める仮処分命令を申し立てた。


[決定の要旨]
X社とY社との間で初めて運送契約書が作成されたのは、昭和53年4月1日であり、それ以前の11年間<中略>は、運送契約書が一切取り交わされることなく運送委託契約が継続されてきたこと、菓子、食料品の製造及び売買等を主たる業務とするY社にとって、本件契約の目的である冷菓製品当の運送委託は、恒常的に必要とされる取引であること、X社とY社との間でその後運送契約書が作成されたのは、昭和56年及び平成元年の2回だけであり<中略>、それら以外には、本件契約は特に更新手続がされることなく、昭和42年以来27年間<中略>にわたって自動的に更新されてきたこと、X社は、この間、A社を買収し、B社を設立し、大阪事務所を開設し、<必要な装備を>設置するなどしたが、これらの設備投資や事業活動は、専ら本件契約に基づく運送業務をより効率的に遂行することを目的としてされたとまではいえないが、少なくとも本件契約がその後もかなりの長期間にわたって存続することを前提としてされたものといえること、一方、Y社も、最近の景気低迷による営業利益の減少といった厳しい経営上の事態さえなければ、平成6年4月以降も依然としてX社との間に広域運送に関する契約を存続させたであろうと推認されること<中略>からすれば、本件契約においては、その有効期間は1年間と定められているものの、当事者双方とも、その後における経営状況の変化などによりいずれか一方が契約の存続を望まないといった特殊事情でも発生しない限りは、契約を存続させる意思であり、その意思を、契約書上「当事者のいずれからも別段の意思表示がない場合は、さらに1年間有効とし、じ後もこの例による」と表現したものと解される。そして、以上の事実関係にかんがみると、本件契約は、期間の満了ごとに当然更新を重ねて、あたかも期間の定めのない継続的契約と実質的に異ならない状態で存続していたものというべきであり、Y社がX社に対し平成5年12月20日にした前記広域運送に関する契約を終了させる意思表示(広域運送契約終了の意思表示)は、右のような契約の一部を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、その実質において解約の意思表示に当たり、その効力を判断するに当たっては、期間の定めのない継続的契約の解約の法理を類推するのが相当である。そうすると、Y社が本件契約の一部をなす区間運送に関する契約を解約するためには、X社に対し、相当の予告期間を置いて解約を告知することが必要であると解されるところ、本件契約に基づく運送業務がX社の全業務中に占める割合は、その売上高において約60パーセントであり、そのうち広域運送分が占める割合は約60ないし70パーセントであること、X社が新規に本件契約と同種・同規模の運送委託契約を締結することは事実上不可能であることは前記のとおりであるから、X社は、広域運送に関する契約の終了によって、極めて大きな影響を受け、経営上深刻な事態すら招きかねないものと認められ、その他以上の諸事情を総合考慮すると、右の予告期間は、これを6か月間とするのが相当である。<そして、Y社の広域運送契約終了の意思表示において定められた予告期間は、右意思表示がされた平成5年12月20日から相当期間である6か月間を経過した平成6年6月20日をもって満了し、広域運送契約は解約により同日終了したものである。>