東京アメリカンクラブ事件(配置転換に伴う賃金減額)

東京アメリカンクラブ事件(東京地裁平成11年11月26日判決)
「基本給の減額のように労働条件の極めて重要な部分については、明確に拒否しなかったことをもって黙示の承諾があったものとみなすことはできないとして、配置転換に伴う賃金の減額を無効とした。」


[事案の概要]
被告Yは、日米関係を中心として国際親善を増進すること等を目的とする社団法人である。原告Xは、昭和44年8月にYと雇用契約を締結し、ウェイトレスとして勤務し、同50年1月からはXの希望がかない電話交換手として勤務していたが、Yにおいて電話交換業務の廃止が決定されたため、平成8年10月からは洗い場で勤務することとなった。当該職種の変更に伴い、Xの賃金は基本給が約5万円減額され、その後毎月特別手当も減額された(以下、本件減額措置)。また、本件減額措置に伴い賞与も減額されることとなった。これに対し、Xは本件減額措置をXの同意に基づかない違法、無効なものであるとして、Yに対し減額措置以前と以後の差額の支払を請求した。一方Yは、YとXとの雇用契約は職種限定契約であるとしたうえで、Xと職種変更について合意したこと、さらに、Yにおいて、基本給は、就業規則に規定された職種ごとの等級号俸制により決定されているが、本件職種変更に伴い、Xに2年間かけて漸減させる旨の提案をし、本件減額措置についてもXから異議等が述べられなかったことより、本件減額措置を有効であると主張した。また、仮にXとの間で本件減額措置を含む雇用契約変更の合意が認められないとしても、職種変更の合意に伴いYの就業規則の適用により本件減額措置は当然に有効である旨主張した。


[判決の要旨]
〈Xとの雇用契約を職種限定契約であるとするYの主張を退け、異動ないし配置転換も予定された雇用契約であると判断し、本件減額措置に関して、Xは同意していなかったと認定した上で、〉当時Xとしては、交渉はEC〈Yの従業員会であり、労働条件等についてYと定期的に協議してきた団体〉に委ねたとの認識を持っており、平成8年9月ないし10月ころには、本件原告訴訟代理人に相談もしていたことからすると、本件減額措置に承認する意思はなかったことが明らかであるし、そもそも、基本給の減額のように労働条件の極めて重要な部分については、単に当該労働者が明確に拒否しなかったからといって、それをもって黙示の承諾があったものとみなすことはできない。したがって、Xの同意があったことを理由として本件減額措置が有効であるとするYの主張は理由がない。〈中略〉Yとしては、等級号俸制の導入以来、原則として職種・職務と等級号俸を関連づけて基本給を決定しようとしてきたことは窺えるものの、すでに判断したように、Yと各従業員との雇用契約は職種限定契約ではなく、厳密には全職名と等級号俸とは関連づけられておらず、また、従業員の受ける不利益を考慮したり、従業員との合意に基づいたりして、等級号俸制を弾力的に運用してきたものというべきであり、職務の変更に伴い当然に変更された等級号俸を適用しているということはできず、職種の変更と基本給の変更は個別に当該従業員との間で合意され、決定されてきたものといわざるを得ない。したがって、本件減額措置は、就業規則の適用によるものであるから、有効であるとするYの主張は理由がない。〈中略〉 本件減額措置は無効である。