直源会相模原南病院事件(配転命令権)

直源会相模原南病院事件(最高裁平成11年6月11日第二小法廷決定)
「業務系統の異なる職種(医療事務職等→労務系職種であるナースヘルパー)への配置転換命令には、一定の場合を除いて、本人の合意が必要とした。」


[事案の概要]
X1及びX2は、医療事務助手として、X3は、薬局助手として、それぞれYに雇用されていた。採用の際、希望職種欄に、X1は第1希望を経理事務、第2希望を医療事務と、X2は医療事務と、X3は薬局助手と、それぞれ記入し、希望職種以外の仕事については、一切話に出ていなかった。Yは、朝礼において、人事異動(約80名)の発表をし、X1らをナースヘルパーに配転する旨の辞令を交付した。なお、X1ら以外に異職種間の異動となる従業員はいなかった。Xらは配転の理由の説明を求め、ナースヘルパーの業務の内容を問い合わせたが、明確な説明はなされなかったため、配転を受け入れることはできないと返答した。Yは、配転命令を拒否した点について、Yの経営を改善する上で必要不可欠な措置であるにもかかわらず、X1らは正当な理由なくこれを拒否しているとして、懲戒解雇した。


[決定の要旨]
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって明らかに右各項に規定する事由に該当しない。[原判決の要旨]〈Yにおける職種・職務は、多岐にわたっており、大別すれば事務職系と労務職系に二分することができるが、基本給は共通であり、就業規則上も、職員に対しては、業務の必要により、職種、職場又は勤務地の変更を伴う異動を命ずることがあり、職員は正当な理由なくして異動を拒むことはできないと定められていること、Yは必要の都度求人情報紙に必要な職種を明示して求人をしていることを認定した上で、〉X1及びX2が医療事務職員として、X3が薬局助手として採用されたことは前記認定〈事案の概要〉のとおりであるが、右(1)〈上記〉の事実を考慮すると、求人情報紙に記載する募集の職種の表示は、あくまでも採用時における担当業務の内容を示すものにすぎず、したがって、また、Xらの採用の際の事情を考慮してもなお、XらとYの間の労働契約がXらの職種がその主張のように医療事務職員ないし薬局助手と限定されていたものとは、たやすく認めがたい。しかしながら、医療事務職員及び薬局助手は、いずれも主として事務的作業を職務内容とするのに対して、ナースヘルパーの仕事は、〈中略〉入院患者が日常生活していく上での介護であって、身体に不自由がある患者を直接の相手方とする労務的作業を職務内容とする点で医療事務ないし薬局助手の職務とは、根本的に異なり、前記の職種の分類に従えば、医療事務職及び薬局助手が事務職系の職種に属するのに対し、ナースヘルパーは労務系の職種というべきである。現に、Yにおいても、これまでは、ナースヘルパー(看護助手)の職務は、家政婦紹介所から派遣されて来た家政婦(付添婦)か、あるいは〈中略〉、Yが従前の派遣付添婦からナースヘルパーとして採用した者によって行われて来ており、〈中略〉付添看護婦からナースヘルパーによる介護への切替えを始めた後も、他の職種特に事務職系の職種からナースヘルパーに配置転換を命じられた者はなかったし(そもそもYにおいては、本件人事異動前に異職種間での配転がなされた例はなかった。)、平成6年12月1日付けの人事異動でも、約80名を対象とした異動であるのに、X1、X2、X3以外には、異職種間での配置転換になった従業員はいなかった。右によれば、Y就業規則14条の「業務上の必要により職種の変更を命ずることがある」旨及び「職員は、正当な理由なくして、異動を拒むことはできない」旨の規定は、一般職員については、同じ業務の系統内(事務職系内、労務職系内)での異なる職種間の異動(例えば薬局助手から医療事務職、調理員から看護助手)についての規定であり、業務の系統を異にする職種への異動、特に事務職系の職種から労務職系の職種への異動については、業務上の特段の必要性及び当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつこれらの点についての十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が特に同意した場合を除き、Yが一方的に異動を命ずることはできないものと解するのが相当であり、前記認定のYの一般職員の給与体系が事務職系と労務職系の職種で異なっていないこと、事務職系の職種と労務職系の職種とでは採用資格や採用条件が特に異なってはいないことも右就業規則14条の解釈を左右するものではない。〈ナースヘルパーの人員が大きく不足している切迫した状態であったとは認められないこと、X1らを配転の対象として選定することを積極的に必要とする事情も当別認められないから、本件配転に合理的理由があるとは言い難いとし、また、本件配転につき、異動の前日まで打診がなく、その真意や理由をただしたいと考えるのもまことにもっともなことであるのに、Yが、X1らからの問い合わせに対し、本件配転の理由について明確な説明をしていないことを認定した上で、〉右に述べた事情を総合すると、Yが、これまで事務職系統の職種である医療事務職ないし薬局助手として事務的作業に従事してきたX1、X2、X3に対し、労務職系の職種に属し、労務的作業を職務内容とするナースヘルパーへの配置転換を命ずるについて、客観的に見て、そのような全く職務内容を異にする職種への配置換えを命じなければならない特段の業務上の必要とX1らにこれを命ずる特段の合理性があったとは到底認めるに足りないにも拘わらず、前記のとおり、Yは、X1らの同意なしに一方的に異動を命じたものであるから、X1らがYの配転の命令を拒否したことをもって就業規則24条1項〈次の一に当たると病院が判断した場合には解雇します。〉3号〈勤務成績または労働能力が低劣で業務に耐えられないとき。〉、5号〈その他前各号に準ずる程度の理由があるとき。〉に該当する事由があるということはできない。以上のとおり、X1らの解雇事由に関するYの主張にはいずれも理由がないから、本件各解雇は、いずれも無効である。