倉田学園事件(降格)

倉田学園事件(高松高裁平成9年12月19日判決)
「労働契約の基本的内容を変更する降職処分は、労働契約の同一性を前提とするものではないから、就業規則所定の懲戒事由を根拠として行うことは許されないとした。」


[事案の概要]
Yは、私立学校の設置を目的として設立された法人であって、A高等学校及び同中学校を設置している。X1らは、昭和46年から昭和51年にかけて、YにA校教諭として雇用された。X1らは、教職員組合の組合員である。Yの校長Bは、X1らに対し、毎朝A校の前で、就業規則で定められた始業時刻より15分早い午前8時15分から8時40分まで、生徒の服装指導をするよう命じた。これに対し、X1らが構成員である生徒指導部は、輪番制による服装指導を行う計画を作成した。B校長は、X1らが毎朝生徒指導を行うことになっていないとして、この計画を採用しなかったが、生徒指導部は、輪番制による生徒指導計画を逐次作成し、実施した。Yは、X1らの行為は、就業規則68条5号(正当な理由のない遅刻)、9号(業務上の命令違反)及び10号(勤務の怠慢による業務阻害)に該当するとして、昭和57年3月に、X1ら各自に対し、昭和57年4月付でA校教諭から同校非常勤講師(契約期間1年)に降職する処分をした。


[判決の要旨]
〈証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。〉Yは、A校の職員を就業規則により懲戒することとし(66条)懲戒の種類として、譴責(訓告、戒告、厳告)、減給、出勤停止、降職、懲戒解職の5種類を設け、降職とは、「始末書を提出させ、身分又は職階を下げ若しくは剥奪する。身分又は職階に対し特に支給した給与は、降職により支給しない。」旨定めている(67条)。降職、出勤停止、減給又は譴責の処分事由は、各処分毎でなく各処分に共通に個別具体的に規定され、情状により右の処分を選択することが予定されている(68条)。いずれも始末書を提出させることとしている(ただし、訓告、戒告を除く。)。懲戒解職事由は右とは別個に規定され、その事由があるときでも情状により降職又は出勤停止にとどめることができる(69条)。右認定の懲戒事由の規定の仕方とその内容、職員の身分及び職務の区分とその内容、始末書の機能が「懲戒を行う場合でも、将来の労働関係のスムースな展開を考慮して、可能な限り本人の納得のうえでこれを行おうとしている」ことにあることを考慮すると、YのA校の職員に対する懲戒は、労働契約を終了させない(労働契約の同一性を前提とする)譴責、減給、出勤停止、降職の各処分が、労働契約の終了を前提とする懲戒解職(これに降職処分が含まれるかは後述する。)の処分がそれぞれ予定されていると解される。労働契約の同一性を前提とする降職処分とは、例えば、教諭として採用された者が教頭に就任している場合に、教頭の地位を剥奪するような場合である。ところで、Xらに対する降職処分は、教諭から非常勤講師に降職する内容であるが、右認定事実によれば、満60歳までの終身雇用の教諭としての地位を雇用期間1年間で月給でなく時間給の非常勤講師の地位に降ろすものであって、労働契約の基本的内容を変更するものであるから、社会通念上労働契約の同一性を有すると解することはできない。したがって、本件降職処分は、懲戒解職と新たな講師としての労働契約の申込みの実質を有するものであり、労働契約の同一性を前提とする降職処分ではないから、就業規則68条所定の懲戒事由を処分事由として降職処分を行うことは許されないと解される。A校の就業規則上、降職処分は身分を剥奪することも予定し(67条4項)、懲戒解職事由があるときに情状により降職処分にとどめることができる(69条)旨規定されているところからすると、懲戒解職事由を具備し懲戒解職を行うことができるときは、例外的にこれを緩和する措置として、教論から講師への降職も許される(労働者は講師として労働契約を締結するか否かの自由があるので、不利益な処分ではなく、懲戒手続に特段不利な事情は認められない。)と解するのが相当である。そうすると、X1らに対する本件降職処分は、懲戒解職と新たな講師としての労働契約の申込みの実質を有するものであるから、懲戒解職処分を緩和する降職処分として、懲戒解職事由があるか否かを検討してその効力の有無を判断していくこととする。〈A校の生徒に対し指導を行うため、勤務時間を繰り上げる必要性があり、繰り上げた時間も年間を通じて15分で社会的に著しい負担を伴うものではなく、学校における業務にこのような対応を要する場合があることは否定できないから、本件早朝生徒指導命令が無効であるとまで解することはできないとした上で、〉Yは、本件早朝生徒指導命令の対象者の人選や輪番制よりも適当とする理由につき何らの説明をせず、組合の団体交渉の申入れにも応じなかったこと、Yの意思には反するものの、事実上生徒指導部の策定した生徒指導が行われており、X1らの命令不履行の影響は重大なものとは評価できないこと、本件早朝生徒指導命令が労使関係が険悪化しているところで、事前の打診もなく突然組合幹部が指名されるなど、Yの姿勢にX1らが疑いを持ち、反発することも無理からぬ点があること等の事情に照らすと、X1らの右非違行為は、就業規則69条所定の懲戒解職事由には該当しないと解するのが相当である。