日本トラック事件(労働協約と個別の合意・就業規則の関係)

日本トラック事件(名古屋高裁昭和60年11月27日判決)
「労働条件の基準が、就業規則と労働協約との間で食違う場合は、個々の労働者の労働条件は有利な方の基準に従って決定されるべきである旨の労働者による主張に対し、会社と組合とが、労働条件に関し、就業規則と労働協約が競合する場合は、労働協約が就業規則に優先するとの取扱いをしてきたものであることから、労働者は労働協約の適用を免れることはできないとした。」


[事案の概要]
道路貨物運送事業を営むY社の就業規則には、昭和49年1月から、社員が業務上負傷し、又は疾病にかかり休業した場合、休業補償として平均賃金相当額を支払い、労災保険法に基づく休業補償給付を受けるときは、休業補償給付額との差額を支払う旨定めていた。また、Y社は同社社員で構成されるA労働組合との間で労働協約を締結しており、同協約にも同様の定めがあった。しかし、石油価格の高騰等の事情を受けて経営危機に直面したY社は、A労働組合と協議し、昭和49年6月、暫定的に、業務上負傷・疾病による休業の補償について、労災保険法の上乗せ補償を定額とし、入院療養の場合は1日1,200円、通院療養の場合は1日800円とする労働協約を定めた。そして、同月就業規則を労働協約の内容に合わせる変更を行い、社員に周知した(ただし、所轄労働基準監督署長への届出は行っていなかった)。その後、昭和50年になっても状況は好転しなかったことから、同年7月、Y社とA労働組合は上記労働協約を改定し、休業日が7日を超えるか否かにより異なる額の上乗せ額を定めることとした。この変更も改定労働協約の締結と同時に就業規則変更として盛り込まれた。これら労災補償に関する部分を含む就業規則変更の所轄労働基準監督署長への届出は昭和54年5月に行われた。Y社においてトラック整備工として就労していたX(A労働組合員)は、昭和51年1月に業務上負傷し、腰部挫傷で休業を続けていた。Xは、労働協約により就業規則で保障されていた上乗せ補償の権利が引き下げられ、同協約による労働条件の引下げは無効であると主張し、労働協約による改正を受ける前の就業規則に基づく補償等を求めて出訴した。1審はXの主張の大部分を棄却した。


[判決の要旨]
Xは、労働条件の基準が、就業規則と労働協約との間で食違う場合は、個々の労働者の労働条件は有利な方の基準に従って決定されるべきである旨主張する。しかしながら、本件においては、A労働組合は経営危機解消を目指す使用者(Y社)からの提案に対応し、これと折衝を重ね、一方組合員らに対して執行部の基本姿勢と交渉経過の周知徹底を図って、組合員らに格別の反対意見もなかったことから、暫定協定の締結に至ったものであり、その内容も、経営危機の中で雇傭の安定、賃金水準の維持を図りつつ、やむなく不利益な変更にも合意したもので、不当・不合理なものということはできない。また、XとA労働組合とは、従前からユニオンショップ協定を締結して、労働条件に関し、就業規則と労働協約が競合する場合は、労働協約が就業規則に優先するとの取り扱いをしてきたものであること(なお、遅れながら、昭和54年5月就業規則変更の手続が履践されたこと)は、前認定のとおりである。また、<証言略>によると、本件暫定協定においても、X、A労働組合とも右暫定協定によって、就業規則の該当条項も同一内容に変更せられたものと認識していたことが窺われ、その限りにおいては、従来存した就業規則は、実質的には組合の同意のもとに暫定協定と同一内容に変更せられ、ただ形式的に変更の手続が遅延していたに過ぎないともいえなくはない。そして、本来就業規則を変更すること自体は、それが労働者に不利益な労働条件に変更する内容のものであっても、その内容が合理的なものである限り許されないものではないと解される(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決=秋北バス事件)ことに鑑みても、右のような事実関係のもとでは、Xにおいて改定された労働協約(暫定協定)の適用を免れることはできないと解するのが相当である。