エール・フランス事件(退職勧奨・不法行為)

エール・フランス事件(東京高裁平成8年3月27日判決)
「労働者を退職に追い込むために職場の上司らが行った暴力行為や嫌がらせ行為や、実質上の有用性がかなり低い統計作業を行わせたことが、不法行為を構成するとして、会社と職場の上司らの双方に損害賠償責任を課した。」


[事案の概要]
Xは、外国航空会社Yの日本支店旅客課において、接遇関係の事務を担当していた者である。Yは、昭和55年には大幅な赤字を累積させるようになったことから、労働組合との協議・合意の上、昭和56年3月から4月にかけて希望退職の募集を行った。Yは、Xが勤務成績及び技能において劣っているとの評価をしていたので、希望退職に応じてもらいたい従業員の基準に該当するものとして、退職勧奨の対象としたが、Xはこれに応じなかった。希望退職募集期間を通じ、またその後も、Xに対しては強い退職要請がなされ、上司のZ等から嫌がらせや暴力行為を受けた。また、Yは、同年4月からXを一人だけ別室に移し、5月には遺失物係に配置換えし、そのいずれにおいても実質的な業務をさせなかったほか、同年12月には旅客課に配置換えをして統計作業に従事させた。


[判決の要旨]
〈嫌がらせ、暴力行為について、Zらが、Xに「やめろ。」などと大声で言ったこと、数回にわたりXを足蹴りし、殴ったこと、Xの机の上にゴミをまき散らしたこと等の事実を認定した。〉〈仕事差別について〉Yは、Xにつき、入社以来、勤務成績及び勤務態度が悪く、チームの一員として他の職員と協調して上司の指示に従って正しく仕事をする態度に欠けるなどと評価してきたものであるところ、昭和56年3月、Yの日本支社再建策の実施の際に、Xが、右再建策について、「会社再建策は偽物だ。」等の言辞を繰り返すなどし、他の職員との協調性に乏しく、上司には反発し、他の職員から遊離した存在になっていたことなどから、B〈旅客部長〉らは、Xに対する態度を硬化させ、同年4月からXを一人だけセクレタリアの部屋に移し、会社再建についてのレポートの提出を命じるとして実質的な業務をさせず、同年5月、Xを遺失物係に配置換えをした後にも、実質的な仕事を与えておらず、同年12月初め、C〈Bの後任〉らはXに統計の仕事をするよう命じたものということができる。Xのこのような態度に照らすと、BがXをセクレタリアの部屋に移したことも理解できないではないが、Xが右のような態度を示すようになったことには、管理職等が、希望退職者の募集期間中とはいえ、勤務時間内外にわたり、Xに対して希望退職届を提出するよう強く要請し続けたことにもその一因があり、Xが前記のような態度をとったことにつきXのみを責めることはできないものというべきであるから、Xをセクレタリアの部屋に移し、レポートの作成を命じて実質的な仕事をさせなかったことは、行き過ぎの措置というべきである。そしてその後、遺失物係においても実質的な仕事を与えず、右係におけるXの勤務態度が著しく不良であったと認めることができないのに、前記のとうり、Cは、Xに対し、全く無意味・無価値であるとはいえないにしても、実質上の有用性はかなり低いものであった統計作業のみを行うよう命じ、その後本件期間終了までの7ヶ月間(統計作業を命じられてから当審口頭弁論終結まで約14年間)これに従事させたものであり、右の措置は、Yの再建策に反対を唱えるXに対し、C旅客部長がXの上司であるZ1を通じて命じたものであるから不当な差別であるといわざるを得ない。Zらは、前記の行為〈嫌がらせ、暴力行為〉に基づく損害につき連帯して賠償責任を負うというべきである。前記の暴力行為当は、業務遂行過程における些細な事柄に端を発して、いずれも就業時間中に就業場所において行われた被用者同士の行為であり、Xの損害は、Y会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えられたものであるということができるので、民法715条1項にいうYの「事業ノ執行ニ付キ」行われたものであり、Y会社はXに対して損害賠償責任を負うというべきである。〈また〉前認定の仕事差別が、Yの被用者であるC及びZにより、Yの「事業ノ執行ニ付キ」行われたものであることは明らかであるから、YはXに対して損害賠償責任を負うというべきである。