新光美術事件(留保解約権行使の有効性)

新光美術事件(大阪地裁平成12年8月18日判決)
「労働者が自己アピールをした結果、会社の即戦力になるものと期待されて中途採用された労働者が、期待された能力を有しなかったこと等からなされた本採用拒否が、合理的理由があり、社会通念上相当なものであったとは認められず、無効であるとされた。」


[事実の概要]
Yは、高級カタログの企画立案・印刷加工を行う印刷会社であり、Xは、平成10年7月8日、試用期間3ヶ月としてYに雇用された者である。しかし、Yは、同年10月7日付けの文書等で、同月12日にて試用期間が満了し雇用関係が終了した旨の通知をした。なお、Yは、本採用拒否の理由として、(1)不動産会社へ明渡予定のY所有の遊休地(組合事務所が存置)に自家用車を駐車し、また、組合事務所へ宿泊したことが会社所有地売却の業務妨害に当たること、(2)採用に当たり職務内容を充分に遂行できると積極的に売り込み即戦力として採用されたにもかかわらず、印刷会社の営業職として必要な印刷物の見積計算等ができなかったこと等から、採用時に虚偽の申告をしたといえること、(3)就業規則で定められている誓約保証書を提出せず、給料の遅配について部長に説明のための文書執筆を迫るなどしたことが規則秩序違反に当たること、(4)その他営業活動について業務指示命令違反等があることを理由として主張した。


[判決の要旨]
試用期間中の労働契約は、使用者の解約権が留保されている労働契約であると解されるところ、右留保解約権の行使は、採用後の調査や勤務状態の観察を行って採否の最終決定を行うという解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認されうるものでなければならない。したがって、本件の争点は、Yが本件本採用拒否の理由として主張する各事実〈中略〉について、右解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由であるといえ、かつその行使が社会通念上相当と是認されうるものであるかどうかである。 確かにXは、営業の経験者として自己アピールした結果、Yの即戦力になるものと期待されてYに中途採用されたものの、印刷会社の営業職として必要な印刷物の見積計算等できなかった。しかし、Xは採用面接時、印刷会社に勤務したことがあると述べていたわけではなく、Xと面接した堤総務部長らが、Xが印刷会社との出稿計画進行に従事し、基本的な流れは理解しているとアピールしたことから、能力があると判断したにすぎず、Xに自己の経歴を偽る意図があったわけではない。しかも、印刷物の見積計算については、修得するのには一定の知識と経験が必要であって、A部長も修得すればすむ問題であるとし、実際Yの求人広告には、未経験者でも採用すると書かれていたのであり、またA部長の指導により、Xは営業に出られる程度の最低限の知識は修得していた。そしてその他、Xの経歴について、履歴書等に虚偽の事実が記載されているわけではない。〈中略〉従って、Xが採用面接時に虚偽申告をしたとは認められない。 規則で定められている誓約保証書を提出しなかったこと及び給料の遅配について、B部長やA部長に、給料遅配のための説明の文書を書くように迫ったXの行為は、非難に値するとしても、前者については、給料に不満があったためであり、また後者については、Xが経済的に困窮していた折、給料の再度の遅配という非常事態が起こり、組合もYの対応を非難していた中でのことであることを考慮するならば、これらをもって、本採用の可否についてXの不利益とするのは相当ではない。 C会社オーディオ事業部に対する営業活動において、訪問の回数が1日2回から1日1回に減ったことについては、A部長の指示が、当初はとりあえず顔を覚えてもらうために1日2回は訪問せよというものであったのが、先方に会えるようにアポイントメントをとって訪問目的等を明らかにして訪問せよというものに変わったためである。そして回数は減ったものの、特段用事がなければ、Xは、その後も同事業部に日参しており、その中で基準見積料金の問題等について、同事業部の要望を聞いてきたりしている。また日本橋の電器販売店回りについては、他の業務の都合で1回しか行けなかったものであり、1回という回数を考慮すれば、具体的な提案材料を報告できなかったとしてもやむをえない面があったといわざるをえない。さらに同事業部に対するプレゼンテーションについても、同業他社の製品と違う製品のアイデアを提示したり、Cの企画書作りを手伝ったり、スケジュールの調整を行ったり、さらには徹夜での準備を行ったりと、概ね誠実に職務を果たしていたといえる。 以上によれば、仮に、Yが主張するように、Xに、できてもいない見積計算の演習をできましたと述べたことがあったり、Yの「営業部員のチェックポイント15」を十分修得していなかったり、レポートの体裁もとれていない書面をレポートとして提出するなどの点があったとしても、XはYに採用後、概ね営業職として誠実に職務を遂行していたものといえる。それゆえ、A部長も、同事業部へのプレゼンテーション終了後、Xに対し「これからは君ら若い営業マンに頑張ってもらわないと。」と言い、またXに本採用拒否を通知する際にも「君はこれから必要な人材だ、と言ったんだが…」と述べていたのである。そしてYでの給料遅配発生後、Xが組合の集会等に参加するようになり、Xは、D総務部長から幾度と組合加入の有無を聞かれていたことをも考慮するならば、Xに対する本件本採用拒否が、合理的理由があり、社会通念上相当なものであったとは認められず、本件解雇は無効であるといわざるをえない。