西東社事件(職務変更に伴う賃金引き下げ)

西東社事件(東京地裁平成14年6月21日決定)
「賃金額に関する合意は雇用契約の本質的な部分を構成する基本的な要件であって、使用者において一方的に賃金額を減額することは許されず、これを正当化する特段の事情もないとして、配置転換に伴う賃金減額を無効とした。」


[事案の概要]
Xは、図書の出版・販売を業とするY社に編集者として採用され、約20年間勤務してきた。会社は、平成13年9月、書籍を再販売維持契約書店以外の販売経路で直接販売する直接書籍販売業務(以下、直販業務)の担当者としてXを任命した。Xは同年10月に東京出版合同労働組合分会(以下、組合)に加盟し、組合は、Xの配置転換の撤回を要求する団体交渉を行った。Y社は回答書により、Xについて3ヶ月間の研修期間を設ける旨提案し、Xは、Y社の指示により、平成14年2月から3月まで、管理者養成学校が実施している「管理者養成基礎コース」および「セールス特訓コース」の研修に参加したが、同期間中の血圧上昇により自宅療養したり内勤業務に従事していた。Y社は、同年3月28日の団体交渉において、Xに対し、他の有限会社においてY社の書籍を取り扱う軽作業に就く旨の業務命令(以下、本件配転命令)、及び賃金を66万余円から26万余円に減額する旨(以下、本件賃金減額措置)を提案した。これに対し、組合は、業務内容の変更、勤務形態の変更に伴って、労働条件の不利益変更を行わないよう申し入れ、賃金減額については再考を求めた。Y社は、同月29日、Xに対し、血圧が安定して直販業務に従事できるまでの暫定的措置として、本件配転命令を発したため、Xは物流センター倉庫管理業務に従事することとなったが、これによりXの実働時間は30分短縮された。Y社は、同年4月15日、組合に対する回答書において、本件配転命令後の倉庫管理業務が軽作業であるとして、本件賃金減額措置を行う旨回答した。Xは、本件賃金減額措置を無効として、減額措置以前の賃金額の仮払いを求めた。


[決定の要旨]
労働契約も契約の一種であり、賃金額に関する合意は雇用契約の本質的部分を構成する基本的な要件であって、使用者及び労働者の双方は、当初の労働契約及びその後の昇給の合意等の契約の拘束力によって相互に拘束されているから、労働者の同意がある場合、懲戒処分として減給処分がなされる場合その他特段の事情がない限り、使用者において一方的に賃金額を減額することは許されない。本件賃金減額措置に対し、Xが黙示に同意した事実はないから、本件賃金減額措置は、Y社による一方的な措置であると認められるところ、このような一方的賃金減額を正当化する特段の事情も認められないから本件賃金減額措置は無効というべきである。この点Y社は、本件配転命令後の倉庫管理業務は軽作業であり、配転後の職種の他の従業員と同等の賃金額に減額したものである旨を主張する。しかし、配転命令により業務が軽減されたとしても、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連していないから、配転命令により担当職務がかわったとしても、使用者及び労働者の双方は、依然として従前の賃金に関する合意等の契約の拘束力によって相互に拘束されているというべきである。したがって、本件においても、Y社がXに対する配転命令があったということも契約上の賃金を一方的に減額するための法的根拠とはならない。