フジシール事件(職能資格の引き下げ)

フジシール事件(大阪地裁平成12年8月28日判決)
「本件の就業規則上、副参与職は、「職能」資格であり、これは本来引下げられることが予定されたものでなく、これを引下げるには、就業規則等にその変更の要件が定められていることが必要であるとした。」


[事案の概要]
Xは、昭和55年にYに雇用され、主に開発業務を担当し、関連会社への出向等を経て、Yのソフトパウチ部の部長となった。平成9年4月にYの商品開発部の業務内容が分社化されたのに伴い、Xは関連会社Aに出向し、ソフトパウチ部長としてソフトパウチの技術開発に従事してきた。Xは、平成10年12月14日に出向先の社長から3か月分の給与加算と通常の退職金の支払いを条件に退職勧奨を受けた。これをXが拒否すると、得意先への訪問を禁止され、Yの会長から12月21日に「管理職としての業績不振の責任をとってもらう」といわれ配転先が決まるまで自宅待機を命じられた。Xは、12月24日に、平成11年1月5日付でYの筑波工場への転勤命令を受け(以下「本件配転命令1」)、1月29日に副参与職から副参事職への降格処分を受けた(以下「本件降格」)。Xは、本件配転命令を不服とし、筑波工場に勤務する雇用契約上の義務のない地位にあることを仮に定める仮処分を申立て、大阪地裁はこれを認容した。Yは、同年7月21日、Xに対し、期限を定めない自宅待機命令を出すとともに、8月12日、同月17日付で、関連会社Bの奈良工場への出向を命じた(以下「本件配転命令2」)。同日より、Xは奈良工場で勤務している。Xは、主位的請求として、Aのソフトパウチ部に勤務する雇用契約上の地位にあることの確認を請求し、予備的請求として、Yの筑波工場に勤務する雇用契約上の義務のない地位にあること、Bの奈良工場に勤務する雇用契約上の義務のない地位にあることの確認等を請求した。


[判決の要旨]
〈1 本件配転命令1の有効性について〉Yの就業規則上、業務上必要があるときは異動を命じ得る旨の定めがあり、また、雇用契約上、Xの職種に限定はなく、更にXは勤務地の限定のない全国社員を選択していた者であるところ、これらに照らせば、Yには、Xの個別的同意がなくとも、配転を命じる権限がある。しかしながら、当該配転について、業務上の必要性が存しない場合や、業務上の必要性が存したとしても他の不当な動機・目的をもってなされたものである等の特段の事情が存する場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効となるとするのが相当である。〈中略〉証拠上Yの筑波工場の生産量の増大、これに伴う設備投資の増加は認められるものの、当時筑波工場でのインク担当業務にXを従事させなければならない業務上の必要性があったものとはいえず、退職勧奨を拒否した直後に従前の開発業務とは全く異なった業務に従事させていること、Xが担当した業務がその経験や経歴とは関連のない単純労働であったこと等に照らせば、本件配転命令1は、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして発令されたものというべきで権利の濫用として無効であるといわざるをえない。〈2 本件配転命令2の有効性について〉Yは、本件配転命令2は、本件仮処分により、本件配転命令1の効力が否定されたことに伴い、暫定的な措置としておこなったものであると主張し、業務上の必要性もあると主張する。しかしながら、そもそも、先の本件配転命令1の効力が訴訟で争われており、その有効・無効が確定しない間に、「暫定的」な配置をすることは、労働者の労働条件を著しく不安定にするものであるうえ、Xが奈良工場で従事している業務は、工場の製造ラインから排出されるゴミ(梱包材料のゴミ、不良品、製品をとった残りかす)をゴミ置き場から回収し、手押し台車に入れ、工場の屋外に設置されているゴミ回収車の荷台に入れる作業等であって、従前嘱託社員が行っていたものであり、Xをかかる職場に配置する業務上の必要性はないものといわざるをえない。従って、本件配転命令2も権利の濫用として無効である。〈3 本件降格について〉本件降格処分は、懲戒処分として行なわれたものである。そして、Yの就業規則上、「降格」処分については、懲戒の種類としての記載があることは認められるものの、いかなる場合に降格処分となるかという要件が定められていない。懲戒処分は、会社の秩序維持のため、使用者が、労働者に対し、配置転換や昇級・昇格の低査定などとは別個に科す特別の不利益である以上、懲戒の事由が予め就業規則等で明記され労働契約の内容となっていることが必要であると解すべきである。したがって、本件降格処分は規定に基づかないものであるから無効である。また、Yは、人事権行使の裁量の範囲内として本件降格処分を行いうると主張する。しかしYの就業規則上、副参与職は、「職能」資格であり(〈証拠略〉)、これは、労働者が、一定期間勤続し、経験、技能を積み重ねたことにより得たものであり、本来引下げられることが予定されたものでなく、これを引下げるには、就業規則等にその変更の要件が定められていることが必要である。Yでは、職能資格の変更についても就業規則上規定があるが、本件降格処分では、右定められた要件、手続が遵守されておらず、右Yの主張は採用しえない。