ダイハツ工業事件(懲戒)

ダイハツ工業事件(最高裁昭和58年9月16日第二小法廷判決)
「使用者の懲戒権の行使は当該具体的状況の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」


[事実の概要]
被上告人Xは、上告人Y会社に組立工として勤務していたが、デモに参加し凶器準備集合等の嫌疑で現行犯逮捕・勾留され、その間会社を欠勤した。拘留終了後、Xは出勤して勝手に従前の職場に割り込んで作業を行い、事情聴取のための労務課への出頭命令も無視し続けたので、Y会社はXに自宅待機を命じた。しかし、Xは連日入構しようとして、警士とトラブルをくり返したので、Y会社はXを20日間の(第一次)出勤俸止処分に処した。Xは、その後も入門しようとして警士ともみ合い、週2、3回会社前で抗議のビラの配付を続けたので、Y会社はXを20日間の(第二次)出勤停止処分に処した。Y会社は第二次処分満了日に、Xの働く適当な職場がないとして、無期限の自宅待機命令を行ったが、Xは、工場ゲリラと称する17名の者らとともに工場内に入り、ベルトコンベアを停止させたり、警士に対し打撲傷の傷害を与えたりしたので、Y会社はXを懲戒解雇した。


[原判決の要旨]
〈原審(大阪高裁昭和55年12月24日判決)は、第二次出勤停止処分の対象となった行為は、第一次出勤停止処分の対象となった一連の就労を要求する行為とその目的、態様等において著しく異なることはなく、その続きにすぎないから、第二次処分は不当に苛酷な処分であって無効であるとした。〉


[判決の要旨]
使用者の懲戒権の行使は当該具体的状況の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。まず本件第二次出勤停止処分をみると、その対象となった昭和46年12月18日及び同月19日の行為は、本件第一次出勤停止処分前の所為であり、しかも本件第一次出勤停止処分の対象となった一連の就労を要求する行為とその目的、態様等において著しく異なるところはないにしても、より一層激しく悪質なものとなり、警士が負傷するに至っていることと、Xは本件第一次出勤停止処分を受けたにもかかわらず何らその態度を改めようとせず、右処分は不当で承服できないとしてこれに執拗に反発し、その期間中池田第二工場の門前に現れて右処分の不当を訴えるビラを配布するという挙に出たこととを併せ考えると、本件第二次出勤停止処分は、必ずしも合理的理由を欠くものではなく、社会通念上相当として是認できないものではないといわなければならず、これを目して権利の濫用であるとすることはできない。次に、本件懲戒解雇について考えるに、原審の確定した前記事実関係によれば、Xは、職場規律に服し、Yの指示命令に従い、企業秩序を遵守するという姿勢を欠いており、自己の主張を貫徹するためひたすら執拗かつ過激な実力行使に終始し、警士の負傷、ベルトコンベアの停止等による職場の混乱を再三にわたり招いているのであって、その責任は重大であるといわなければならない。〈警士が負傷すること可能性のあることはXにも予見できたにもかかわらず、あえて実力による就労に出ていること及びXによって、ベルトコンベアを停止せざるを得ないような事態が起こり、工場の業務そのものにまでかかる具体的な被害が招来されたことを認定した上で、〉以上のとおり、Xとしては自己の立場を訴え、その主張をするにしても、その具体的な手段については企業組織の一員としておのずから守るべき限度があるにもかかわらず、本件懲戒解雇の対象となったXの行為は、その性質、態様に照らして明らかにこの限度を逸脱するものであり、その動機も身勝手なものであって同情の余地は少なく、その結果も決して軽視できないものである。しかも、Xは、長期欠勤の後にようやく出勤してきた昭和46年12月8日以来、一貫して反抗的な態度を示し、企業秩序をあえて公然と紊乱してきたのであるから、Yが、Xをなお企業内にとどめ置くことは企業秩序を維持し、適切な労務管理を徹底する見地からしてもはや許されないことであり、事ここに至ってはXを企業外に排除するほかないと判断したとしても、やむをえないことというべきであり、これを苛酷な措置であるとして非難することはできない。それゆえ、以上のようなXの行為の性質、態様、結果及び情状並びにこれに対するYの対応等に照らせば、YがXに対し本件懲戒解雇に及んだことは、客観的にみても合理的理由に基づくものというべきであり、本件懲戒解雇は社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものと判断することはできないといわなければならない。