エール・フランス事件(休職)

エール・フランス事件(東京地裁昭和54年1月27日判決)
「後遺症の回復の見通しについての調査をすることなく、また、当分の間は一部の業務を行わせながら徐々に通常勤務に復させていく配慮を全く考慮することなく、復職不可能と判断した使用者の措置は妥当なものとは認められず、休職期間満了による退職取扱いが無効とされた。」


[事実の概要]
Yは、フランスに本店を置いて航空運輸業を営む会社であり、日本国内では新東京国際空港内等に支店を、東京に営業所等を設けている。Xは、昭和40年5月にYに入社した者であるが、新東京国際空港支店に勤務していた昭和54年6月5日以降、結核性髄膜炎の療養のためYを長期病気欠勤した。その後、Xは、その完治が見込まれたことから、昭和55年10月ころからY新東京国際空港支店の次長に対し、復職希望と復職に際しては夜間勤務のない東京営業所での勤務(タウン勤務)への転勤を希望する旨要望したが、Yは、原職復帰・タウン勤務をともに拒否し、昭和55年12月25日までYの長期病気欠勤の期間を延長した後、同日付をもってXが退職したものとして扱った。なお、Yの就業規則第10章第2条第2項は長期病気欠勤の場合継続した欠勤期間は、勤続10年以上20年未満の者の場合18ケ月を越えないものとし、「この期間を過ぎた場合職員は退職とみなされる」と規定している。


[判決の要旨]
就業規則第10章第2条第2項の規定が、従業員が勤務に起因しない傷害を受けたり病気に罹患した場合に、その療養のため一定期間を限度として欠勤しうる旨の従業員の権利を規定したものであること、そして、同項の「この期間を過ぎた場合職員は退職とみなされる」との規定は、所定の休職期間が満了してもなお当該従業員の傷病が治癒せず勤務に復帰しえない場合に、使用者は労務の提供をなしえないことを理由として当該従業員を改めて解雇するまでもなく、当然に契約が終了して自然退職となる旨を定めたものであることは明らかである。ところで、右のような自然退職の規定は、休職期間満了時になお休職事由が消滅していない場合に、期間満了によって当然に復職となったと解したうえで改めて使用者が当該従業員を解雇するという迂遠の手続を回避するものとして合理性を有するものではあるが、本件におけるように、病気休職期間満了時に従業員が自己の傷病は治癒したとして復職を申し出たのに対し使用者の側ではその治癒がまだ充分ではないとして復職を拒否する場合の同規定の適用解釈にあたっては、病気休職制度は傷病により労務の提供が不能となった労働者が直ちに使用者から解雇されることのないよう一定期間使用者の解雇権の行使を制限して労働者を保護する制度であることに思いを至せば、右に述べた自然退職の規定の合理性の範囲を逸脱して使用者の有する解雇権の行使を実質的により容易ならしめる結果を招来することのないよう慎重に考慮しなければならない。したがって、使用者が従業員の復職の可能性を否定して更に休職期間を延長するのであればともかく、復職を否定して休職期間満了による自然退職扱にする場合にあっては、Yの主張するごとく、会社が客観的に当該従業員が原職に復帰しうると認める保障のない限り復職させる義務を会社に負わせるものではなく休職期間の経過により自動的に退職の効果が発生すると解することは、復職を申し出る従業員に対して客観的に原職に復帰しうるまでに傷病が治癒したことの立証の責任を負わせることとなり、休職中の従業員の復職を実質的に困難ならしめる場合も生ずることになるから妥当ではなく、使用者が当該従業員が復職することを容認しえない事由を主張立証してはじめてその復職を拒否して自然退職の効果の発生を主張しうるものと解するのが相当である。そして、傷病が治癒していないことをもって復職を容認しえない旨を主張する場合にあっては、単に傷病が完治していないこと、あるいは従前の職務を従前どおりに行えないことを主張立証すれば足りるのではなく、治癒の程度が不完全なために労務の提供が不完全であり、かつ、その程度が、今後の完治の見込みや、復職が予定される職場の諸般の事情等を考慮して、解雇を正当視しうるほどのものであることまでをも主張立証することを要するものと思料する。YがXに対してなした本件退職取扱の当否について判断するに、YがXの復職申出に際してのタウン勤務への転勤を希望したのに対してこれを拒否したことは、Yの当時の経営事情からしてやむえなかった措置として認容しうるが、原職復帰を不可能として復職申出を拒否し、昭和55年12月25日をもって退職したものとして扱っている措置は、相当性を欠き、これを容認することはできないものと思料するが、その理由は次のとおりである。<YがXの復職を不可能としたのはA産業医の判断を尊重したためだが、その基礎となったB、C医師の意見書は、復職自体を否定せず、復職にあたり後遺症を考慮し自動車運転、高所作業等を禁止するという内容や、軽勤務から徐々に通常勤務に戻すことが望ましいという内容で、>これら意見書に記載された内容の限りにおいては、運航搭載課の職場事情のもとにおいてXを他の課員の協力を得て当初の間はドキュメンティストの業務<肉体的疲労は軽度な業務>のみを行なわせながら徐々に通常勤務に服させていくことも充分に考慮すべきであり、後遺症の回復の見通しについての調査をすることなく、また、復職にあたって右のような配慮を全く考慮することなく、単にA医師の判断のみを尊重して復職不可能と判断したYの措置は決して妥当なものとは認められない。 また、右A医師の意見書は、Xの復職可能性の判断につきコーディネーター<肉体的疲労が比較的大きい業務>とドキュメンティストの両方の業務を交互に担当する通常勤務の場合を想定して判断したものであって右に記載した配慮をも含めての判断ではなかったことが窺われ、<A医師の判断は、運航搭載課の職場事情が資料として加えられた点を除き、B、C医師の意見書に比べて特に措信すべきものといえず、>同医師の意見書をもってYの右措置が相当である旨の立証があったものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる疎明もみあたらない。よって、YのXに対する本件退職取扱の措置は無効のものであり、Xの復職申出を容れてXを従業員として取扱うべきものであると思料する。