富国生命保険事件(休職)

富国生命保険事件(東京高裁平成7年8月30日判決)
「傷病(頚肩腕障害)を有する労働者に対して使用者が行った無給等の不利益を伴う休職命令について、傷病の内容、程度が通常勤務に支障を生ずる程度のものであったとは認められず、就業規則に定める休職事由に該当しないとされた。」


[事実の概要]
Xは、昭和49年にYに雇用された者であるが、平成3年2月に頚肩腕障害であるとの診断を受け、有給休暇を取得後、同年4月22日から傷病欠勤した。平成4年4月、Xは同年5月1日から就労可能(ただし半日勤務)との診断を得たが、YはXの出勤を認めなかった。同年9月24日、Xは全日勤務が可能である旨の確認書をYに提出し、これを受けてYは同年12月1日から出勤するよう通知したので、Xは同日から復職したが、その後、Yは、Xに対し、症状増悪の懸念があり疾病が治癒していないことから通常勤務には耐えられない状況であると判断したとして、平成4年3月1日から休職とする旨通知した。このため、Xは、休職命令の無効確認と休職期間中の賃金の支払を求めた。


[判決の要旨]
Yは、Xの頚肩腕障害の症状の再燃及び増悪可能性がないとはいえないことを理由に、通常勤務に耐えられないものと判断し、その結果、就業規則第48条1項5号(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び6号(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に該当するとして、Xを休職処分にしたものであると認められる。 しかしながら、就業規則によって認められるYの休職制度全般の趣旨に照らすと、同規則48条1項5号の休職事由は、職員本人に何らかの帰責事由があり、それが原因となって、本人をその業務に従事させることが不適当と認められるような事由をいうものと解するのが相当であるところ、Xが頚肩腕障害に罹患したことや、それが治癒せず将来再燃、増悪する可能性があることなどが、ただちに、Xの責めに帰すべき事由によるものであるとまでいえないことは明らかであるから、右症状の再燃、増悪の可能性があることをもって、同条項6号の休職事由があるということはできない。したがって、右事由を根拠とするYの第一回休職命令は、理由がなくその効力がない。なお、<証拠略>によれば、Yにおいては、同条項5号を、職員本人の帰責事由の有無にかかわらず、単に、職員を該当業務に従事させることが不適当と認められる場合には直ちに休職を命ずることができるものと解しているかのようであるが、そのような解釈は、右5号前段の「本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、」との明文の規定を無視することになるし、さらには、職員に対し前記のように無給などの不利益をもたらす休職制度の基本となる同条項1号から6号までの詳細な要件そのものを無意味なものとならしめることになるから、到底採用できない。 休職命令は休職中の被用者に退職金の額、退職年金の受給資格、受給期間、定期昇給等につき具体的な不利益を与えるものであることを併せ考えると、病気休職に準じるやむを得ない事由があるか否かは厳格に解釈すべく、本件の場合、Xの頚肩腕障害が治癒しておらず、その症状が再燃したり、増悪したりする可能性があるというだけでは足りず、Xの右傷病が、就業規則48条1項1号の傷病欠勤の場合と実質的に同視できるものであって、通常勤務に支障を生ずる程度のものである場合に、はじめて同条項6号の休職事由があるというべきである。<Yは、Xから出勤の申し出を受け平成4年12月1日からの出勤命令を発していること、Xは同日から本件休職命令までの約3か月間通常勤務を行っていたこと、この間、Xは通院治療を受けていたが、症状の特段の悪化はなかったことなどを総合すると、>平成5年3月1日時点において、Xが就業規則48条1項1号<傷病欠勤が引き続き第32条の期間以上にわたった場合>の場合と実質的に同視しうるような長期間の傷病欠勤を継続し、Xの傷病の内容、程度が通常勤務に支障を生ずるほどのものであったとは到底認められないから、同条項1号に準ずる休職事由があるとは認められず同条項6号の休職事由には該当しないというべきである。 また右1号に準ずる休職事由が存在しないことは、次のようにいうこともできる。すなわち、Yは、Xの頚肩腕障害を業務外及び通勤災害以外の傷病として取り扱っているものであるところ、Yの会社における、職員の業務外及び通勤災害以外の傷病による欠勤及び休職の制度は、基本として、(1)職員が業務外等の傷病による欠勤の申出をしYがその事実を認めた場合に傷病欠勤として取り扱われ、(2)その傷病欠勤が勤続年数に応じて定められている一定の期間以上継続した場合には6か月の休職が命ぜられ、例外的に右休職の要件が備わっていないときでも、それに準ずるやむを得ない理由があると認められるときはその都度定める期間の休職が命ぜられ、(3)さらに、右6か月の休職期間満了後も傷病欠勤が止まず復職が命ぜられないときは、職員は自動退職になるというものである。したがって、同規則32条1項1号に定める期間の傷病欠勤をしても、その後、医師の証明書を提出して出勤の申し出をし会社がこれを承認して出勤を命じ、これに基づいて職員が相当の長期間にわたり就業規則に従った通常勤務を行っている場合には、もはや右休職を命ずる前提としての傷病欠勤の存在がなくなるのであるから、傷病欠勤と短期間の出勤を繰り返すなどの特段の事情のない限り、たとえ、職員の傷病が治癒しておらず治療中であり、将来その症状が再燃し増悪する可能性がある場合であっても、それを理由として職員に対し無給等の不利益を伴う右休職処分を命ずることは許されないというべきである。本件においては、Xの頚肩腕障害が治癒せず治療中でありその症状は将来再燃、増悪する可能性があるが、Xは、長期間の傷病欠勤後、Yの承認の下に復職してすでに約3か月通常勤務を行っていたものであるから、右特段の事情があるとは認められず、Yは、Xに対し右休職処分ができないものである。