山口観光事件(懲戒)

山口観光事件(最高裁平成8年9月26日第一小法廷判決)
「懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。」


[事案の概要]
Yは、ホテル等の経営等を目的とする株式会社であり、Xは、Yとの契約に基づき、Yの経営する店舗で、マッサージの業務に従事していた。平成5年8月31日、Xが、Y代表取締役のAに対し、休暇を請求したところ、Aは、Xに対し、「勝手に休まれたのでは、仕事にならない。お前みたいな者は、もう必要がないので辞めてくれ。明日から来なくてよい。」と述べた。Xは、Yに対し現職復帰を求めたが、拒否されている。また、Xは、本件契約締結時に、57歳であったにもかかわらず、履歴書に45歳であると記載した履歴書をYに提出していた。Yは右の意思表示後にこの事実を認識した。


[判決の要旨]
使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、本件懲戒解雇は、Xが休暇を請求したことやその際の応接態度等を理由としてされたものであって、本件懲戒解雇当時、Yにおいて、Xの年齢詐称の事実を認識していなかったというのであるから、右年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない。これと同旨の原審の前記判断は、正当として是認することができ〈る。〉[原判決の要旨]Yは、本件解雇が懲戒解雇であり、Xが、本件契約を締結する際、Yに対し、虚偽の生年月日を記載した履歴書を提出したことが、就業規則所定の懲戒解雇事由である「重要な経歴をいつわり、その他不正な手段により、入社したとき」に当たる旨主張し、Xが右契約締結に際し、生年月日が、昭和9年7月25日(57歳3ヶ月)であるにもかかわらず、生年月日を昭和21年7月25日(45歳3ヶ月)と記載した履歴書をYに提出したこと、Yの就業規則は、従業員が「重要な経歴をいつわり、その他不正な手段により入社したとき」(37条1号)は、制裁を行う、制裁はその情状により、訓戒、減給、出勤停止、懲戒解雇を行う(38条)旨定めることは前判示のとおりである。しかし、懲戒解雇は、使用者が、労働者に就業規則所定の企業秩序に違反する非違行為があったことを理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰を課する性質を有するものであり、その効力は、使用者が懲戒解雇の理由とした労働者の当該行為について判断されるべきである。したがって、Xについて、Yが本件懲戒解雇の理由としなかった非違行為があったとしても、これを理由に本件懲戒解雇の正当性を基礎づけることは許されないし、また、仮に、懲戒解雇当時、Yが認識していなかった別の非違行為があったとしても、右行為の存在を理由に懲戒解雇の正当性を基礎づけることは許されないものと解すべきである。そして、前記認定の事実によれば、本件解雇の意思表示が、経歴詐称を理由としてされたものでないことは明らかであり、Yが、X作成の右履歴書の生年月日の記載が事実に反することを知ったのは、本件解雇後であることはYも自認するところであるので、その余の点を判断するまでもなく、Yの右主張は採用できない。