国労札幌支部事件(懲戒)

国労札幌支部事件(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷)
「企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる。」


[事案の概要]
Xは国鉄Yの職員である。Xは自己が日常使用している職員詰所備付けのロッカーに労働組合のビラを貼付した。Xは、Aらからこれをはがすよう促されたが、これに応じず、ビラをはがしたAらからビラを取り戻し、再度ビラを貼付し、その際に、ビラをはがそうとしたAの手を払いのける行為に及んだ。他数名が同様の行為を行っている。当該ロッカーは、札幌駅長あるいは札幌運転区長の責任において保管され、職員に使用を許しているものであり、Yの物的施設の一部を構成するものである。本件ビラが貼付された場所は、旅客その他一般公衆の出入りは全くなく、Xら職員が休憩や就労前の準備をする等のために使用する場所である。Yの総裁は、Xらに対し、就業規則66条3号(「上司の命令に服従しないとき」)、17号(「その他著しく不都合な行いのあったとき」)に規定する事由にあたるとして、日本国有鉄道法31条の基づいて、戒告処分に付した。原判決において、Xらの行為は正当な組合活動として是認されるものであり、就業規則66条3号又は17号に該当せず、本件各戒告処分はなんらの処分事由なくなされたものであり、無効であると判断した。


[判決の要旨]
企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。〈本件ビラの貼付が行われたロッカーはYの所有し管理する物的施設の一部を構成するものであること、Yの職員は、本件のようなビラを貼付することは許されていないこと、掲示板以外の場所に組合の文書を掲示することは禁じられていることから、〉Xらが、例え組合活動として行う場合であっても、本件ビラを右ロッカーに貼付する権限を有するものではないことは明らかである。 〈本件ビラは、当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、常時春闘に際しての組合活動に対する訴えかけを行う効果を及ぼすことを考慮した上で、〉Yが所有・管理しその事業の用に供している物的施設の一部を構成している本件ロッカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もって公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、というYの企業秩序維持の観点からみてやむを得ない所であると考えられ、貼付を許さないことを目してその物的施設についてのYの権利の濫用であるとすることはできない。したがって、Xらの本件ビラ貼付行為は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、Yの企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず、これに対しXらの上司が既述のようにその中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない。そして、日本国有鉄道法31条1項1号は、職員がYの定める業務上の規程に違反した場合に懲戒処分をすることができる旨を定め、これを受けて、Yの就業規則66条は、懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(3号)、「その他著しく不都合な行いのあったとき」(17号)と定めているところ、前記の事実によれば、被上告人らは上司から再三にわたりビラ貼りの中止等を命じられたにもかかわらずこれを公然と無視してビラ貼りに及んだものであって、Xらの各行動は、それぞれYの就業規則66条3号及び17号所定の懲戒事由に該当するものというべきである。