ジャクパコーポレーション事件(退職後の競業避止義務)

ジャクパコーポレーション事件(大阪地裁平成12年9月22日判決)
「退職後の競業行為が不法行為となるのは、それが著しく社会的相当性を欠く手段、態様において行われた場合等に限られ、単に競合する新規事業を計画し、その遂行に必要な従業員を確保し取引先を募るなどしたことが当然に不法行為となるものではないとして、不法行為の成立が否定された。」


[事実の概要]
Y会社は、幼稚園等の業務委託を受けて園児らに対する体育指導等を行うことを主たる業務とする会社であり、X1は、平成10年3月31日をもってY会社を退職した者、X2、X3らは平成11年3月31日をもって同社を退職した者であるが、Y会社の顧客であった幼稚園の一部はY会社との契約更新を拒絶し、平成11年4月よりA会社と業務委託契約を締結した。X1、X2、X3らはY会社を退職後、A会社に入社し引き続き体育指導等を行っている。Y会社は、X2、X3らの行為が退職金不支給条項にあたるとして退職金を支払わなかったため、X2、X3らは退職金の支払を求めた。一方、Y会社は、X1、X2、X3らが顧客奪取等の不法行為をしたとして損害賠償を請求した。


[判決の要旨]
<X1、X2、X3らの不法行為責任について>労働者は<中略>、労働契約終了後は、そのような競業避止義務を当然かつ一般的に負うものではなく、競業行為によって使用者の営業秘密が他企業に流出し、使用者の決定的な打撃を受けるなどといった特殊な場合を除き、自ら主体となりあるいは同業他社へ就職するなどして退職前の使用者との競業行為に従事することも、これを自由に行いうるのが原則である。その際、退職前の使用者の顧客に対する営業活動を行ってはならないなどの義務が当然に生じるものでもない。したがって、退職後の競業行為が退職前の使用者に対する関係で不法行為となるためには、それが著しく社会的相当性を欠く手段、態様において行われた場合等に限られると解する。これに関して、Y会社は、退職金規程8条2項において退職後の競業行為を禁止していると主張するが、これは、退職金の支給条件(減額、不支給事由)を定めた規程であり、これをもって一般的に退職後の競業行為を禁止したものと解することはできず、他に、Y会社の就業規則等には退職後の競業行為などを禁じる規程はない。<X2らの出した退職後担当園の指導をしない旨の誓約書について>右誓約書はX2らが提出を拒絶しがたい状況の中で、意思に反して作成提出させられたものというべきであり、任意の合意といえるかには多大な疑問があるのみならず、誓約内容も、X2らが指導を担当していた幼稚園等すべてにおいて、期限を限定することもなく、他に雇用されて指導することまで制限するものであって合理性を有するものとも認められない。したがって、かかる誓約書による合意にX2らの退職後の職業選択の自由を制約する効力を認めることはできず、不法行為責任が問われている本件においても、右合意に違反したことをもって、不法行為に該当するとか、違法性を強める事情などとすることはできない。そこで、X1の行っていた従業員勧誘や営業活動、また、これに応じて、A会社の従業員として幼稚園で体育指導等に従事しているX2らの行為が社会的相当性を逸脱するほど違法性の高いものであるかについてであるが<中略>、X1が、Y会社の従業員に対して転職の勧誘行為を行っていたことや幼稚園に対して新会社との契約締結への働きかけを行っていたことは認められるが、その手段、態様において社会的相当性を逸脱するほど著しく不当なものであったとは認められず、したがって、それらがY会社に対する不法行為に該当するということはできない。X2らが、X1の勧誘に応じて転職を決意するなどしたことやX3らが労働組合を結成して退職者を支援する要求をしたりしたことも、それを違法とは目し得ない<中略>。よって、X1、X2、X3らに対し損害賠償の支払を求めるY会社の請求は<中略>理由がない。<退職金の支払について><X1らの行為が>違法とはいえないことは既に説示したとおりであり、これらが懲戒解雇を相当とする背任行為に該当するものとも認められない。<中略><退職金不支給条項である>「他への就職活動をした者」についても、在職中の転職活動を一律に退職金不支給事由とすることは著しく退職の自由を制限するものであって、到底合理的な制約と解されないし、文言からしても「不当な手段をもって、会社の利益に反して」という限定がかかるものと解すべきである。しかるに、X2、X3らが、Y会社在職中にX1の勧誘に応じるなどして新会社への転職を決意したとの事実は認められるが、それ以上に右転職にあたって、格別不当と目すべき手段を弄するなどした事実は認められない。よって、X2、X3らに右不支給事由があるとは認められない。ところで、Y会社の退職金規程8条2項前段は、同業他社に転職するなどした社員の退職金減額支給を規定しており<中略>、区域、期間を限定し、同業他社への転職、同様の営業をした者等に支給すべき退職金及び年度末退職加給金を一般の自己都合退職の場合の2分の1とするのであるが、<中略>指導者の流出が顧客幼稚園との体育指導等の委託契約の維持等に影響する部分が少なくないと考えられること、右の程度の不利益を課したとしても労働者の転職の自由を著しく制限することになるとはいえないと考えられること、本来退職金が功労報償的性格をも併せ有することなどに鑑みるときは、右規程が合理性のない措置であり、無効であるとすることはできない。X2、X3らは、いずれもY会社退職後引き続き同じ地域で営業するA会社に就職し指導職として幼稚園での体育指導業務等に従事しているのであり、かかる行為が退職金規程8条2項前段に該当することは明らかである。そうすると、X2らの退職金及び年度末退職加給金は、一般の自己都合退職の場合の2分の1しか発生していないというべきである。