興和事件(出向・要件)

興和事件(名古屋地裁昭和55年3月26日判決)
「三社一括で採用を行っている会社間での出向につき、就業規則上出向に関する規定がおかれ、社内の出向手続も制度として確立し、それに従い多数社員が出向していた実績があった。」


[事案の概要]
Yは、医薬品等の製造等を業とする会社であり、Xは、昭和47年にYに採用されて名古屋工場に勤務していた者であるが、Yは、昭和52年、Xに対し、A社大阪支店勤務を命ずる旨の命令の内示をした。
Y、A及びB社は、取締役社長を同じくし、就業規則等もほとんどのものが3社共通に作成運用され、3社の従業員は、3社間を移動してもその労働条件において大部分が共通である。また、3社は、Xら本社採用資格社員の採用について、一括求人、採用方式をとっている。

[判決の要旨]
3社の実質的一体性が高度であり、実質上同一企業の一事業部門として機能していて、いわゆる親子会社における関係以上に密接不可分の関係にあること、又統一的な人事部門によりほぼ統一的な人事労務管理がなされ、従前3社間の人事異動は、転勤とみなされていた実態等があること、このような実態を背景として、Xは、細部にわたって詳細にとは云えないまでも、右の基本的構造を、採用時に説明を受け、これを了承して入社したものと認められるから、右Xの採用時の右包括的同意に基づき使用者たるYは、Xに関する将来の他の2社のうちのいずれかへの出向を命ずる権限を取得したものといわねばならない。Xは、出向については出向を命ぜられる者の同意が必要であり、その同意は入社時の包括的同意では足りず、出向先等を明示した会社側の個別的、具体的条件の提案に対する個別的同意でなければならないと主張する。しかしながら労働者の出向を拒む利益、即ち契約における当初の使用者のもとで労務に服する利益を、一身専属的なものとみて、これを放棄しまたは他に委ねるには、当該権利者の同意を必要とするという趣旨に解するならば、それは真に同意に価するものである限り、明示とか個別的なものに限る理由なく、暗黙或いは包括的態様のものでも足ると解すべきである。もっとも有効な合意とみるためには、それが労働者の十分なる理解のもとでなした真意に基づくものであることが必要であり、また内容が著しく不利益なものや、将来不利益を招くことが明白なものであってはならないことは当然である。更にまた同意をした当時と出向命令時との間に関連会社(出向先)の範囲に変動があったり、出向先の労働条件に変化があって、労働者に不利益な事情変更があったような場合には、包括的同意を根拠として出向を命令することは問題であろうが、そのような場合ではない限り、使用者は事後的に、包括的同意の効力の範囲内において具体的出向命令を発し得ると解するのが相当である。本件では、X主張のごとき個別的同意は認められないが、入社の際明示の包括的同意があったことは前認定のとおりである。そして前述のごとく当時Yには就業規則上出向に関する規定が置かれ、社内の出向手続も制度として確立していたこと、そして右手続に従って多数社員が関連会社に出向していた実績があること、出向先は3社と限定されており、この3社間では労働条件は大部分が共通であり、出向によって特に経済的不利益はないこと、Xに対しては十分なる説明がされていることなどの状況がみられ、これらは、Xの右同意が真意に基づくものであることの認定を補強する事情であるとともに、右同意の内容が相当であることを裏付ける事情ともなると解されるのであって、右事情を総合して判断すると、Xがなした包括的同意は、軽率によるものとか、正当性を欠く意思表示であるなどとは到底認めがたく、真意に基づく同意としての内容に即した法的効果を生ぜしめるに価するものと認めるのが相当である。<中略>以上によるとYはXに対して、入社時の契約に基づき包括的出向命令権を取得していたものというべく、本件命令は右権限の行使として右同意の趣旨の範囲内において行われたものと認めるのが相当である。