カントラ事件(休職)

カントラ事件(大阪高裁平成14年6月19日判決)
「労働者が運転者として職種を特定して雇用された場合、その労働者が従前の業務を通常の程度に遂行することができなくなった場合には、原則として、労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供をすることはできない状況にあるものとされた。」


[事実の概要]
Yは、一般区域貨物運送業等を目的とする会社であり、Xは、昭和63年に職種を運転者と特定して雇用され、以後、大型貨物自動車の運転手として稼動してきた。Xは、平成8年9月21日に尿路結石と、その後、慢性腎不全と診断され、Yを欠勤した。業務外の疾病による欠勤が6ヶ月以上続いたことから、Yは平成9年3月26日からXを休職扱いとした。Xは、平成10年6月1日に復職を申し入れたところ、Yはこれを拒否した。その後、Xは、平成12年2月に復職したが、復職を求めたときから現実に復職するまでの間のYによる就労拒否は理由がなく不当であるとして、その間の賃金の支払を求めた。


[判決の要旨]
Xは、運転者として職種を特定してYに雇用された者であると認められる。そして、労働者がその職種を特定して雇用された場合において、その労働者が従前の業務を通常の程度に遂行することができなくなった場合には、原則として、労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供、すなわち特定された職種の職務に応じた労務の提供をすることはできない状況にあるものと解される(もっとも、他に現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは、債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるとはいえないものと考えられる。)。ところで、Yにおける運転者としての業務は、貨物自動車を運転して貨物を客先に配送するとともに、配送先で積荷の積み降ろし作業を行い、Yの各営業所に戻るという業務であり、運転業務、積み降ろし業務のいずれをとっても肉体的疲労を多く伴う作業が含まれており、また、長距離運転の場合や交通事情などによっては、相当の肉体疲労を伴うことが予想される業務内容である。したがって、少なくとも、ある程度の肉体労働に耐え得る体力ないし業務遂行力が必要であるから、これを欠いた状態では運転者としての業務をさせることはできないといわざるを得ない。しかし、他方で、Yにおいては、就業規則において、従業員を従事する業務により職種の区分をしているものの、業務の都合により職種の変更もあることを予定しており、その職種のうち作業員は、運転者として雇用されたものであっても就労が可能と考えられる。また、運転者の業務についても、愛知、石川、福井、浜松、香川への1日1往復の運転業務と、兵庫、大阪への基本的に1日2往復の運転業務がローテーションで行われており、必ずしも長距離運転を前提とするものだけではなかった。したがって、このような状況において、Yの職場の状況に即応しつつ、Xが運転者としての職務をすることが全くできなかったか、あるいはYの職場の運営を考慮に入れつつも一定の業務が可能であったといえるかどうかについて検討する。<平成10年6月について>Yは、A医師<Xの主治医>の従前の診断で症状の好転が見られなかったことから、産業医であるB医師の診断を受けることを求め、その検査結果や判断を重視して、平成10年6月の復職を認めなかったものであるが、その直後ころにC医師<大学病院の専門医>の診断書が提出がされたことを考慮しても、上記B医師の判断の内容等に照らすと、Yの判断は正当というべきである。<平成11年1月について><平成11年1月の>時点で、Xは改めてB医師の診断を受け、B医師は軽作業であれば復帰可能であるとの診断をした。この時点でも、検査結果は前回のときの結果と大差なかったが、B医師はそれまでの状況に基づき上記の診断をしたものである。<中略><Xの場合には、>慢性腎不全のため欠勤するようになってから、平成10年6月の復職申入れまでの2年近くも大きな変化なく推移してきたものであるから、Xが欠勤前のような長距離運転を含む業務に直ちに従事することは困難としても、時間を限定した近距離運転を中心とする運転業務であれば、復帰可能な健康状態にあったというべきであり、時間を限定しない作業員の業務も可能であったと認められる。Yとして、平成10年6月の復職申入れを認めなかったのは、前記のとおり正当であるが、その後Xから同年7月6日付のC医師の就労可能との診断書が提出され、同年8月からはXが強く復帰を求めていたのであるから、客観的な健康状態と就労可能かどうかについて検討すべきであったというべきである。そして、前記のとおり平成11年1月20日の前記B医師の診断をもとに検討すれば、比較的軽度の作業の運転者等として復帰を認めることが可能であったというべきである。これらを総合してみるとき、Xは、遅くとも平成11年2月1日には、業務を加減した運転者としての業務を遂行できる状況になっていたと認めることができ、Xは、債務の本旨に従った履行の提供をしたものと認められる。以上によれば、Yは、Xに対し、復職が可能となった平成11年2月1日から現実に復職した前日である平成12年1月末日までの賃金支払義務がある。