メレスグリオ事件(配置転換は有効)

メレスグリオ事件(東京高裁平成12年11月29日判決)
「配置転換命令は有効だが、必要な情報を提供していないとして、本件配置転換命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は無効とした。」


[事案の概要]
Xは、昭和63年に、レーザー等の電子光学部品の製造販売等を行う会社Yに入社したが、Yでは平成3年頃から売上が減少し始めたため、平成5年2月、Xに対して退職勧奨を行ったが、Xはこれを拒否した。その後、Yの本社・玉川工場でXと基本的に同じ仕事をしていたパートタイマーのAが退職勧奨に応じたため、その後任として、同月、東京都渋谷区の営業本部から当該工場への配転を命じたが、Xが拒否したため、YはXを懲戒解雇した。


[判決の要旨]
1 本件配転命令の効力についてXは、経費削減の一環として人員整理の方策をとることにしたが、パートタイマーは優先的に、かつ、例外なく退職させる方針であったことから、本社・玉川工場の総務部経理課に所属していたAもその対象となり、本人も応諾して退職する運びとなった。ところが、一方、配送センターの統合や部長の配置転換等により本社・玉川工場の総務部(総務課、経理課)の業務量が増大することが予想されたため、Yは営業本部でAと同種の仕事をしていたXをAの後任に配置転換するのが合理的であると考えたというのであり、これらの事情からすれば、本件配転には業務上の必要性が認められる。もっとも、XはYが当初X及びAに対して退職勧奨したときには、二人とも退職するものと予定しており、Aの後任は必要ないものと判断していたはずであると主張するが、なるほどその時点においてはAの後任を予定してはいなかったとしても、Aが退職勧奨に応じ、Xがこれを断った時点において、改めて人員の合理的配置を検討することは十分にあり得るところであって、XをもってAの後任に相応しいと判断したことに特段不自然な事情が見当たらない以上、この一事をもって本件配転の業務上の必要性を否定することはできない。また、Xは、本件配置命令は、退職勧奨を拒否したXに対する嫌がらせを目的にしたもので、その狙いは通勤不可能な本社・玉川工場への配置転換を命じることにより、Xを退職せざるを得ない状態に追い込む不当な目的でなされたものである旨主張するところ、Xに対してまず退職勧奨が行われ、これを断った翌日に本件配転の意向打診があったという事実経過などからすれば、Xがそのように受け取ったとしても無理からぬ面があり、Yにおいて本件配転の必要性等について十分な説明を尽くしたといえるか疑問なしとしないけれども、先に認定した一連の経過に照らして、本件配転命令がXを退職せざるを得ない状態に追い込む不当な目的でなされたものと断ずることは困難であり、他にこれを肯認するに足りる証拠はない。更に、Xの住居から本社・玉川工場に通勤するには、片道約2時間の通勤時間を要するというのであり、独身の女性であるXが漸く入居できた賃貸の公団住宅で老後も安定した生活を続けていきたいと強く望んでいることも、心情として理解できないわけではないが、首都圏における通勤事情に鑑みれば、自宅から片道約2時間の本社・玉川工場への通勤が不可能であったということはできない。そうすると、結局、以上のような事情があるからといって、本件配転命令がXに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいうことができない。以上のとおり、本件配転命令について権利の濫用と解すべき特段の事情は認められない。2 本件懲戒解雇の効力について配転命令自体は権利濫用と評されるものでない場合であっても、懲戒解雇に至るまでの経緯によっては、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は、なお、権利濫用としてその効力を否定されうると解すべきである。本件においてこれをみると、本件配転命令はXの職務内容に変更を生じるものでなく、通勤所要時間が約2倍となる等の不利益をもたらすものの、権利濫用と評すべきものでないが、Yは、Xに対し、職務内容に変更を生じないことを説明したにとどまり、本件配転後の通勤所要時間、経路等、Xにおいて本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように、生じる利害得失についてXが判断するのに必要な情報を提供することなくしてされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は、性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである。