帝国臓器製薬事件(配置転換は有効)

帝国臓器製薬事件(最高裁第二小法廷平成11年9月17日判決)
「単身赴任を余儀なくされるが、別居手当及び住宅手当が支給された。」


[事案の概要]
Yは、各種医薬品の製造販売を業とする株式会社であるが、Yに勤務するXが、昭和60年Yの東京営業所から名古屋営業所への転勤を命じられ、本命令により、妻及び子と別居せざるを得なくなり、単身赴任をすることとなったものである。


[判決の要旨]
本件転勤命令は違法なものとはいえず、これをもって債務不履行又は不法行為に当たるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。[原判決の要旨]終身雇用制度の下での転勤制度は、広域的な事業展開を行っている企業においては、現に、労働力の調整、職場の活性化、生産性の向上、人材の育成等の有用な機能を果たし、不可欠の人事管理施策であるといえるところ、本件においては、Yの就業規則及びYとXとの労働契約に定められたとおり、Yは業務上の必要に応じ、その裁量によりXの勤務場所を決定することができ、従業員は、正当な理由がない限りはこれを拒否することができないものというべきである。<中略>そして、右の業務上の必要性は、Yの業態から見れば、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に変えがたいといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働者間の公平を図りながら、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定することができる。他方、住所の移転を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に影響を与え、経済的・社会的・精神的不利益を負わせるものであるから、Yの就業規則及びYとXとの労働契約に基づきXが本件転勤命令を拒否する正当な理由があるといえるためには、Y及びXが右不利益を軽減、回避するためにそれぞれとった措置の有無・内容など諸般の状況の下で、Yの業務上の必要性の程度に比し、Xの受ける不利益が社会通念上甘受すべき程度を著しく越えるものと認められることを要するものと解するのが相当である。本件転勤命令は、Yにおいて医薬情報担当者に対して長年実施されてきて有用ないわゆるローテーション人事施策の一環として行なわれたものとして、Yの業務の必要性があり、Xにとっては、Yに勤務を続ける以上はローテーション人事により住所の移転を伴う転勤をする時期が既に到来しており、遅かれ早かれ転勤することを覚悟していて当然であり、転勤先が東京から新幹線で二時間の名古屋という比較的便利な営業所であってみれば、これによって通常受ける経済的・社会的・精神的不利益は甘受すべきであり、A<Xの妻>がYの川崎工場に勤務し続ける以上は単身赴任をせざるを得ないものというべきである。他方、Yは、Xに家族用社宅ないし単身赴任用住宅を提供し、従前の例にこだわらず別居手当を支給し、持家の管理運用を申し出るなど、就業規則の範囲内で単身赴任、家族帯同赴任のいずれに対しても一応の措置をしたものということができるところ、本件転勤命令においてYのとった対応だけでは社会通念上著しく不備であるとはいえない。そうすると、結局、Yの業務の必要性の程度に比し、Xの受ける経済的・社会的・精神的不利益が労働者において社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものと認めることはできないというべきである。以上のとおり、本件転勤命令は、業務上の必要性に基づいて発せられたものであり、他方、Xらの受けた経済的・社会的・精神的不利益は、転勤に伴って通常甘受すべき範囲内のものというべきであるから、労働契約ないし就業規則に違反するものではなく、したがって、YがXに対して本件転勤命令を発したことに違法性はないものということができる。